ギレリス
2008年11月30日
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これは故ギレリスが残した最上の演奏の一つである。
非常に遅いテンポからブラームスの複雑な音型を丁寧に解きほぐし、それによって作曲者の心が比類なく伝わってくる。
地響きを立てるような凄まじいダイナミズムも決して力まかせにはならず、逆に何気ない部分にも表情がよく出て、カンタービレや情感が生きている。
特に第1番では、これほど立派な第1楽章の演奏は、そう滅多に聴けるものではない。
"鋼鉄のピアニスト"といわれたギレリスの鋭いタッチは、ブラームスの、若き日の苦悩の時代に書かれたこの作品にぴったりの厳しさをもっている。
ひとつひとつの音からして芯が強く、激しくオーケストラとわたりあう部分になっても、少しの揺るぎもないのが見事だ。
特筆すべきはヨッフムの老練な指揮ぶりで、断然素晴らしい。
ベルリン・フィルを存分に鳴らしながら、これぞブラームスだ!といった重厚な響きをつくりあげている。
特に第1楽章は凄絶さの限りをつくしている。
ギレリスは若いころから一切の粉飾を排し、音楽の核心に鋭く切り込んでゆくような演奏をしてきた人だけに、晩年のこの演奏には、そうした特徴のうえに、さらに精神的な厚みが加わっている。
第2番でも全体に強靭なタッチで、男性的に弾きあげながらも、抒情的で詩的な"歌心"にあふれているのが魅力だ。
ヨッフムもベルリン・フィルを存分に鳴らしながら、構えのしっかりとした音楽をつくりあげている。
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2008年07月10日
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全10集からギレリスが20曲を選んだもので、ギレリスは暗い情熱を表出しながら、北欧的なファンタジーを濃厚に引き出していて聴かせてくれる。
明晰ながらも暖かく深い音でもって各曲の曲想を描き分けており、その多様な表情のうちにリリカルな詩情が自ずと立ちのぼってくる。
「ノルウェーの踊り」や「家路」などのようなリズミカルな作品では、ギレリスは惚れ惚れとするような鮮やかなリズム感を示す一方、「アリエッタ」や「郷愁」などテンポの遅い曲では間然とするところのない歌を聴かせる。
しかも、少しも構えたところを感じさせない。グリーグの表現した一つ一つの小宇宙に対してギレリスが深い共感と愛情でもって接しているのが伝わってくる。
こうした小曲においては、ギレリスの完成度の高い音楽をたっぷりと楽しむことができる。
これを超えるような演奏はなかなか出てこないのではないだろうか。
ギレリスというとわが国では鋼鉄のピアニストという面ばかりが強調されてきたきらいがある。
確かに彼は強固な技巧と力強いパワーを持っていた。
しかしその一方で、彼が豊かな叙情的感性の持ち主だったことを忘れてはなるまい。
このグリーグの「抒情小曲集」は、ギレリスのそうした叙情的側面を如実に示す素晴らしい1枚だ。
グリーグの小品のロマン的な深みを改めて認識させられるような演奏である。
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2008年02月13日
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聴きものはやはり後期のピアノ・ソナタ。
「ハンマー・クラヴィーア」は驚くほど高い透明度を持った演奏。
あたかも作品の構造そのものが自らの意志で音楽として鳴り響くという趣だが、これは知と情が作品の特質に従ったバランスを見せるということで、完璧に音楽的な演奏といえる。
余分な感情の動きや情緒のひだがまとわりつくということもない。
そしてギレリスのいわば構造的演奏は第4楽章のフーガでその真価を十全に発揮している。
ひとつの規範となる現代的解釈の名演。
第30番と第31番は1985年10月に急逝したギレリスが残した文字通り最後の録音。
いずれも流麗な演奏で、年齢からは考えられないほどみずみずしい響きだ。
特に第31番は出色の出来で、フィナーレのフーガの前に置かれているアダージョ・マ・ノン・トロッポは、もの悲しい淋しさをしずしずと歌いあげ、弛緩した趣が全くなくてさすが。
ここにはギレリスが到達した最後の境地が示されている。
しかもこの2曲からは、強い精神集中の向こうに、より開かれた世界をうかがい知ることができる。
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1985年に69歳の誕生日を目前にして没したギレリスは、晩年ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音に取り組んでいたが、残念なことに未完のままに終わった。
彼の残した演奏はいずれも特筆すべきもので、その強靭なタッチと正確無比なピアニズムはベートーヴェンに最も相応しい。
この2枚のディスクに収められてる曲目はベートーヴェンの作品としてはポピュラーなものだが、これらの作品に聴くギレリスの精神の集中力には驚くべきものがある。
つまりギレリスの演奏は、ベートーヴェンこそ彼が真に対決すべき作曲家であったことを如実に物語っているのだ。
その豊かな表現の底には常に鋼の精神があり、ベートーヴェン作品の大きさと奥行きの深さをよく知らしめる演奏である。
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2007年12月21日
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58年録音では、ギレリスは腰の強い締まったタッチで存分に激しい力感を表出し、音楽の運びも明確で淀みがない。
ときとして粘りや柔らかみに不足するが、自己のスタイルの範囲内で感情も込めている。
ライナーの指揮は厳しいアンサンブルと迫力が印象的で、曲想のきりりとした対比に独自のものがある。
雰囲気には欠けるが、ギレリスとともに思いきりのよさが快い。
ヨッフムと組んだ72年録音は、ギレリスが成し遂げた最も感動的なブラームスである。
演奏スタイルは旧録と変わっていないが、フィナーレのテーマが本当のグラツィオーソで弾かれているのを聴けば、ギレリスの到達した奥深い音楽の世界が理解されるだろう。
テンポは全体に遅く、ブラームスの書いた複雑な楽想を、ピアニスト、指揮者が一体になって、丁寧に解きほぐし、そこに新しい光を当てている。
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