グリーグ
2023年01月21日
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ヨルマ・パヌラの弟子で、ノルウェー出身の気鋭の若手指揮者アイヴィン・オードランによるグリーグの管弦楽曲全集の第2弾になる。
「この音楽の風味は、わたしの血です」と語るように、オードランもまたグリーグの生まれ故郷ベルゲン育ち。
第1弾においては「ペール・ギュント」組曲や交響的舞曲集などの有名曲が中心であった。
第2弾においては、2つの悲しい旋律や組曲「ホルベアの時代より」など、知名度においてはやや劣るものの、旋律の美しさが際立った知る人ぞ知る名品の数々を収めているのが特徴と言えるだろう。
そして、第1弾と同様にいずれも素晴らしい名演と高く評価したい。
本盤に収められた各楽曲におけるオードランのアプローチは、いささかの奇を衒うということのないオーソドックスなものと言える。
同郷の大作曲家による作品を指揮するだけに、その演奏にかける思い入れは尋常ならざるものがある。
豊かな情感に満ち溢れた演奏の中にも、力強い生命力と気迫が漲っているのが素晴らしい。
各楽曲の随所に滲み出している北欧の大自然を彷彿とさせるような繊細な抒情の表現にもいささかの不足はないところであり、いい意味での剛柔バランスのとれた名演に仕上がっている点を高く評価したい。
とりわけ、2つの悲しい旋律における「過ぎし春」の心を込め抜いた歌い方には抗し難い魅力があると言える。
組曲「ホルベアの時代より」においては、颯爽とした歩みの中にも、重厚な弦楽合奏を駆使して、祖国への深い愛着に根差した溢れんばかりの万感を込めて曲想を優美に描き出しているのが見事である。
2つのメロディや2つのノルウェーの旋律におけるオードランの心を込め抜いた情感豊かな演奏は、我々聴き手の感動を誘うのに十分である。
オーケストラにケルン放送交響楽団を起用したのも成功しており、演奏全体に若干の重厚さと奥行きの深さを与えるのに成功している点を忘れてはならない。
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ノルウェー出身の気鋭の若手指揮者アイヴィン・オードランが、ドイツの名オーケストラであるケルン放送交響楽団を指揮してグリーグの管弦楽曲全集のスタジオ録音を開始することになったが、本盤に収められた演奏はその第1弾となるものである。
第1弾は、グリーグの最も有名な管弦楽曲である「ペール・ギュント」組曲と交響的舞曲集、そして、リカルド・ノルドロークのための葬送行進曲の組み合わせとなっている。
いずれも驚くべき名演と高く評価したい。
「ペール・ギュント」組曲は、近年では組曲よりも劇音楽からの抜粋の形で演奏されることが増えつつあるが、本盤のような充実した演奏で聴くと、組曲としても纏まりがある極めて優れた作品であることがよく理解できるところだ。
オードランのアプローチは、いささかの奇を衒うということのないオーソドックスなものと言える。
同郷の大作曲家による最も有名な作品を指揮するだけに、その演奏にかける思い入れは尋常ならざるものがあると言える。
豊かな情感に満ち溢れた演奏の中にも、力強い生命力と気迫が漲っているのが素晴らしい。
同曲の随所に滲み出している北欧の大自然を彷彿とさせるような繊細な抒情の表現にもいささかの不足はないところであり、いい意味での剛柔バランスのとれた名演に仕上がっている点を高く評価したい。
交響的舞曲集は、ノルウェーの民謡風の旋律やリズム語法などを採り入れた作品であるが、オードランは、颯爽とした歩みの中にも、祖国への深い愛着に根差した溢れんばかりの万感を込めて曲想を優美に描き出しているのが見事である。
それでいて、第1番の冒頭や第4番の終結部における畳み掛けていくような気迫と力強さは、我々聴き手の度肝を抜くのに十分な圧倒的な迫力を誇っている。
リカルド・ノルドロークのための葬送行進曲は、演奏されること自体が稀な作品であるが、オードランの心を込め抜いた情感豊かな演奏は、我々聴き手の感動を誘うのに十分である。
オーケストラにケルン放送交響楽団を起用したのも成功しており、演奏全体に若干の重厚さと奥行きの深さを与えるのに成功している点を忘れてはならない。
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2023年01月20日
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グリーグの抒情小曲集は、メンデルスゾーンの無言歌集と並んで、ロマン派の2大名小品集と言えるだろう。
グリーグが、ほぼ生涯にわたって作曲し、折々の着想をスケッチ風に書きとめ続けた全10集、計66曲にも及ぶ荘大な小品集は、北欧の詩情が詰まったまさに宝石箱である。
どの作品にも、北欧の大自然を彷彿とさせる美しい抒情に満ち溢れており、グリーグの巧みな作曲技法の下、珠玉の芸術作品に仕上がっている。
本盤が特徴的なのは、有名な小曲を抜粋するのではなく、作品集を抜粋(4集)したところにある。
メンデルスゾーンの無言歌集同様、これはお互いに関係のない小品を集めた作品集である。
こじんまりと完結したその世界を、大げさな身振りによらず、適度に客観的な眼差しをもって演奏しているところに、舘野泉の節度ある姿勢を感じることができよう。
いずれも、北欧のピアノ音楽のスペシャリストである舘野泉ならではの名演であるが、抒情小曲集の中でも最高傑作との呼び声の高い第5集は、特に圧巻の出来栄えだ。
「羊飼いの少年の抒情」はなんとも美しいし、「ノルウェイ農民の行進曲」は、あたかも眼前に、短い夏を終え収穫期を迎えた北欧の農民による秋祭りが行われているかのような、力強くも喜び見満ち溢れた表情を見せる。
「小人の行進のリズミカルな動き」も、卓越した技量も相俟って、至高の超名演と言える。
締めくくりの「鐘の音の憂いに満ちた抒情」は、これぞグリーグとも言うべき至純の芸術性を湛えている。
全曲の中で最もスケールの大きい「トロルドハウゲンの婚礼の日」も、緩急自在のテンポ設定を駆使した演出の巧さが光る名演だ。
北欧ピアノ音楽の第一人者、舘野泉の鮮烈な演奏からは、スカンジナヴィアの爽やかで清らかな風の音が聴こえてくるかのようだ。
HQCD化によって、音質がより一層鮮明になったのも素晴らしい。
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2022年12月24日
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本盤にはカラヤンが得意としたグリーグ、シベリウスの有名な管弦楽曲集が収められている。
このうち、グリーグのホルベルク組曲はカラヤンによる唯一の録音であるが、それ以外の楽曲については複数の録音を行っており、本盤に収められている演奏はいずれも最後の録音に相当する。
いずれも、北欧音楽を得意とした巨匠カラヤンの名に相応しい名演であるが、ホルベルク組曲を除くと、カラヤンによるベストの名演とは言い難いところだ。
カラヤン&ベルリン・フィルは、クラシック音楽界においても最高の黄金コンビと言えるが、この両者の全盛期は1960年代から1970年代にかけてというのが大方の見方だ。
この全盛期においては、ベルリン・フィルの鉄壁のアンサンブルや超絶的な技量をベースに、カラヤンが流麗なレガートを施し、重厚にして華麗ないわゆるカラヤン・サウンドを醸成していた。
そしてこのいわゆるカラヤン・サウンドを駆使した演奏は、まさにオーケストラ演奏の極致とも言うべき圧倒的な音のドラマの構築に成功していたと言えるだろう。
ところが、1982年にザビーネ・マイヤー事件が勃発すると、両者の関係には修復不可能なまでの亀裂が生じ、カラヤン&ベルリン・フィルによる演奏にもかつてのような輝きが一部を除いて殆ど見られなくなってしまった。
その意味においては、ホルベルク組曲については、この黄金コンビが最後の輝きを放った時期の演奏でもあり、ベルリン・フィルの分厚い弦楽合奏やカラヤンによる極上の美を誇るレガードが施された至高の超名演に仕上がっていると評価したい。
これに対して、グリーグの組曲「ペール・ギュント」については、両者の関係に暗雲が立てこもりつつあった時期の演奏であるが、演奏自体にはいささかもかかる問題の痕跡は見られない。
もっとも、旧盤(1971年)にあった清澄な美しさに満ち溢れた透明感がいささか失われていると言える。
筆者としては旧盤の方をより上位の名演と評価したい(同曲には、ウィーン・フィルとの1961年盤もあるが、組曲からの抜粋版であり、そもそも比較の対象にはならないと考えられる)。
また、シベリウスの3曲については、両者の関係が最悪の時期でもあり、加えてカラヤン自身の健康悪化もあって、本盤の演奏では、統率力の低下が覿面にあらわれている。
したがって、カラヤンによるこれらの楽曲の演奏を聴くのであれば、透明感溢れる美しさを誇る1960年代の演奏(1964、1965、1967年(DG))または圧倒的な音のドラマを構築した1970年代の演奏(1976、1980年(EMI))の方を採るべきである。
本演奏には晩年のカラヤンならではの味わい深さがあると言えるところであり、本盤の演奏を名演と評価するのにいささかの躊躇をするものではない。
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2022年11月29日
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カラヤンとツィマーマンが組んで行った唯一の協奏曲録音である。
そもそもカラヤンが、協奏曲の指揮者として果たして模範的であったかどうかは議論の余地があるところだ。
カラヤンは、才能ある気鋭の若手奏者にいち早く着目して、何某かの協奏曲を録音するという試みを何度も行っているが、ピアニストで言えばワイセンベルク、ヴァイオリニストで言えばフェラスやムター以外には、その関係が長続きしたことは殆どなかったと言えるのではないだろうか。
ソリストを引き立てるというよりは、ソリストを自分流に教育しようという姿勢があったとも考えられるところであり、遺された協奏曲録音の殆どは、ソリストが目立つのではなく、全体にカラヤン色の濃い演奏になっているとさえ感じられる。
そのような帝王に敢えて逆らおうとしたポゴレリチが練習の際に衝突し、コンサートを前にキャンセルされたのは有名な話である。
本盤に収められた演奏も、どちらかと言えばカラヤン主導による演奏と言える。
カラヤンにとっては、シューマン、グリーグのいずれのピアノ協奏曲も既に録音したことがある楽曲でもあり、当時期待の若手ピアニストであったツィマーマンをあたたかく包み込むような姿勢で演奏に望んだのかもしれない。
特に、オーケストラのみの箇所においては、例によってカラヤンサウンドが満載。
鉄壁のアンサンブルを駆使しつつ、朗々と響きわたる金管楽器の咆哮や分厚い弦楽合奏、そしてティンパニの重量感溢れる轟きなど、これら両曲にはいささか重厚に過ぎるきらいもないわけではないが、オーケストラ演奏の極致とも言うべき圧倒的な音のドラマの構築に成功している。
カラヤンの代名詞でもある流麗なレガートも好調であり、音楽が自然体で滔々と流れていくのも素晴らしい。
ツィマーマンのピアノも明朗で透明感溢れる美しい音色を出しており、詩情の豊かさにおいてもいささかの不足はなく、とりわけ両曲のカデンツァは秀逸な出来映えであるが、オーケストラが鳴る箇所においては、どうしてもカラヤンペースになっているのは、若さ故に致し方がないと言えるところである。
もっとも、これら両曲の様々な演奏の中でも、重厚さやスケールの雄渾さにおいては本演奏は際立った存在と言えるところであり、本演奏を両曲のあらゆる演奏の中でも最も壮麗な名演と評価するのにいささかも躊躇するものではない。
本盤は1981〜1982年のデジタル録音であり、十分に満足し得る音質である。
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2022年10月29日
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グリーグとシューマンのピアノ協奏曲をカップリングしたCDはあまた存在しているが、本盤のルプー、そしてプレヴィン&ロンドン交響楽団による演奏は、おそらくは最も透明感溢れる美しさを誇るものと言えるのではないだろうか。
何と言っても「千人に一人のリリシスト」と称されるだけあって、ルプーのピアノ演奏はただただ美しい。
グリーグのピアノ協奏曲は、どこをとっても北欧の大自然を彷彿とさせるような抒情豊かな美しい旋律に彩られた楽曲であるが、ルプーは、透明感溢れるピアノタッチで曲想を描き出しており、その清澄な美しさには抗し難い魅力に満ち溢れている。
いかなるトゥッティに差し掛かっても、かかる美しさを失わないというのは、美音家ルプーの面目躍如たるものがあると言えるだろう。
もちろん、ルプーのピアノ演奏には、特別な個性を発揮するなど奇を衒ったところはなく、あくまでもオーソドックスな演奏に徹していることから、聴き手によってはいささか物足りないと感じる人も少なくないと思われる。
同曲の持つ根源的な美しさを徹底して追求するとともに、その魅力をピアニストの個性に邪魔されることなくダイレクトに聴き手に伝えることに成功した演奏とも言えるところだ。
その意味においては、ルプーは音楽そのものを語らせる演奏に徹しているとも言えるところであり、徹底した美への追求も相俟って、聴き手が安定した気持ちで同曲の魅力を満喫することが可能であることに鑑みれば、本演奏を素晴らしい名演と評価するのにいささかの躊躇をするものではない。
他方、シューマンのピアノ協奏曲については、その旋律の美しさのみならず、同曲の本質でもあるいわゆる「ファンタジーの飛翔」をいかに的確に表現することができるのかが鍵となる。
ルプーは、例によって、曲想を透明感溢れるピアノタッチで美しく描き出して行くが、そこには巧そうに弾いてやろうという邪心は微塵もなく、ただただ音楽の根源的な美しさを聴き手に伝えることに腐心しているようにさえ思われるところだ。
したがって、ルプーの表現に何か特別な個性のようなものを感じることは困難ではあるが、そうした虚心坦懐な真摯な姿勢が、同曲の本質でもあるいわゆる「ファンタジーの飛翔」が演奏の随所から滲み出してくることに繋がり、結果として同曲の魅力を聴き手に十二分に伝えることに成功したと言えるのではないだろうか。
いずれにしても、本演奏は、同曲の数ある名演の中でも、徹底してその美しさを追求した素晴らしい名演と評価したい。
両曲のルプーのピアノ演奏のサポートをつとめたのはプレヴィン&ロンドン交響楽団であるが、ルプーの美しさの極みとも言うべきピアノ演奏を際立たせるとともに、聴かせどころのツボを心得た見事な名演奏を展開しているのを高く評価したい。
音質は、英デッカによる優秀録音であるのに加えて、リマスタリングが行われたことで、十分に満足できるものである。
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2021年04月26日
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リヒテルとマタチッチによるグリーグとシューマンという巨匠同士の邂逅により創り出されたロマン溢れるピアノ協奏曲集。
リヒテルの個性が遺憾なく発揮された録音であり、メロディの美しさゆえにとかく抒情性だけで演奏されがちなこの2曲に、漲る気迫を注入する巨匠のピアニズムに瞠目させられる。
グリーグの方はオーケストレーションが比較的平明なためか、ソロを引き立てる効果的な伴奏になっている。
リヒテルのダイナミックなサウンドと緩徐楽章でのリリカルな歌心が発揮されて、聴き古された名曲を見事に蘇らせている。
リヒテルは小細工をせずに王道を行く、極めて正統的な弾き方だが、それがかえって鑑賞する人にダイレクトに伝わってくる。
マタチッチのサポートも上手いが、問題はオーケストラの力量だろうと思う。
モンテカルロ歌劇場管弦楽団はオペラではかなりの腕前を示しているが、オーケストラルワークや協奏曲などになると、やや弱点が表れてしまう。
指揮者の要求に充分応えられないところがあることは確かだ。
それは特にシューマンの協奏曲で明らかで、リヒテルが良くないのではなく、引き立てる彼らのテクニックが劣っているために、ここぞという時に凡庸な効果しか出ていないのも事実だろう。
単純ではないシューマンのオーケストレーションを聴かせるには、レーションが比較的平明なためか、ソロを引き立てる効果的な伴奏になっているし、リヒテルのダイナミックなサウンドと緩徐楽章でのリリカルな歌心が発揮されて、聴き古された名曲を見事に蘇らせている。
その意味では1972年にムーティがウィーン・フィルを指揮したザルツブルク・ライヴが素晴らしい。
リヒテルにいくらかミスタッチがあるが、感動的な演奏であった。
録音データを見るとどちらも1974年の録音で、バランス・エンジニアはポール・ヴァヴァシュール。
リマスタリングの効果もあって音質自体は決して悪いものではないが、オーケストラの解像度はそれほど高くない。
この時代のEMIの録音は、他の大手メーカーに比べると中音部が弱く鮮明さにもやや欠けているのが一般的で、時代相応といったところだろう。
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2021年01月15日
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リヒテルはそのキャリアの終焉まで新しいレパートリーを開拓していた稀なピアニストだった。
このCDに収められた22曲のグリーグの『抒情小曲集』は、1993年7月7日に南ドイツのシュリーアゼーのバウエルンテアターで行われたライヴ録音で、彼の最晩年の円熟した奏法を堪能できる貴重な記録としてお勧めしたい。
この曲集ではピアノの際立ったメカニカルな技巧は必要としないかわりに、ひとつひとつの曲に記されているタイトルのように、自然の情景や森羅万象から受ける感触をイメージさせる繊細な感性ときめ細かなリリシズムの表現が要求される。
そしてこうした小品集を聴かせるリヒテルの総合的なピアニスティックなテクニックは流石で、チャイコフスキーの『四季』でもみせた特有のぬくもりのある夢見るような世界がここでも展開する。
しかもここではグリーグの故郷ノルウェーの風土や民族色とは切り離すことができない北欧の抒情が絶妙に醸し出されている。
そうしたメルヘンチックな遊び心が晩年のリヒテル自身を楽しませたのではないかと思えるほど、それぞれの曲作りが彼の創意工夫と機智に溢れている。
グリーグの『抒情小曲集』は全10巻計66曲に及んでいるが、この日のリサイタルでリヒテルによって演奏されたのは下記の22曲になる。
作品12よりNo.1『アリエッタ』、No.2『ワルツ』、No.3『夜警の歌』、No.4『妖精の踊り』作品38よりNo.12『ハリング』(ノルーウェイ舞曲)、No.18『カノン』作品43よりNo.17『蝶々』、No.22『春に寄す』作品47よりno.23『即興的ワルツ』作品54よりNo.31『ノルーウェイ農民行進曲』、No.34『スケルツォ』、No.35『鐘の音』作品57よりNo.39『秘密』、No.40『彼女は踊る』、No.41『郷愁』作品62よりNo.46『夢想』作品65よりNo.53『トロルドハウゲンの婚礼の日』作品68よりNo.57『山の夕べ』作品71よりNo.62『小さな妖精』、No.63『森の静けさ』、No.65『過去』、No.66『余韻』
ドイツのマイナー・レーベル、ライヴ・クラシックスはリヒテルの他にもヴァイオリニストのオレグ・カガンやチェロのナタリア・グートマンなどの演奏家を中心に1970年代から90年代にかけてのライヴ・レコーディングをリリースしているが、1980年代以降の音源はデジタル録音でライヴ物としては極めてよい状態の音質で鑑賞できる。
またこのレーベルのカタログには若くして亡くなったカガンとリヒテルの協演を含む貴重なCDも多く見出される。
ライナー・ノーツは独、英語による4ページほどのごく簡易なものだが、ドイツで企画されたシリーズだけあって録音データは詳細に記載されていて、信頼性の高いものであることも付け加えておく。
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2015年05月13日
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グリーグの作曲した音楽の全てをひたすら精妙かつダイナミックな鮮烈演奏で聴かせるのは、あの名門老舗楽団、スイス・ロマンド管弦楽団を雄弁・緊密に引き締める新世代指揮者トゥルニエール。
素晴らしい名演である。
かつては、グリーグの劇音楽「ペール・ギュント」と言えば、2つの組曲で演奏するのが主流であった。
わずかに抜粋版としてバルビローリ盤などがあったが、ヤルヴィによる完全全曲盤が登場するに及んで、その流れが変わってきたように思う。
その後、ブロムシュテットなどの名演も登場するなど、劇音楽全体に対する評価がかなり高まってきたと言えるのではないか。
そうした一連の流れの中での、本盤の登場であるが、フランスの新進気鋭の指揮者ならではの生命力溢れる快演と言える。
ヤルヴィ盤と異なり、セリフのみの箇所をすべて省略しているが、音楽として鑑賞するには、この方がちょうど良いと言えるのかもしれない。
それでも、長大な当劇音楽を、CD1枚に収まる75分程度で演奏したというのは、テンポ設定としても、やや速めと言えるのかもしれない。
とは言っても、若さ故の上滑りするような箇所は皆無であり、むしろ、緩急自在のテンポ設定を駆使した演出巧者といった評価が相応しいと言える。
本盤の演奏ではダイナミックなテンポ変化もみせながら、急速部分は驚くほど速く、一糸乱れぬアンサンブルの精悍さと相俟って、曲を実にエキサイティングかつ先鋭的な響きで聴かせてくれる。
対照的に、魔王の山の場面のおどろおどろしさ、有名な朝の音楽のえもいわれぬ清らかさなど、ゆったりしたフレーズのしなやかな歌わせ方も比類なく、北欧的な透明感に満ちたえもいわれぬ美にうっとりさせられてしまう。
それに第4〜第5曲にかけての畳み掛けるような劇的な表現は、実に堂に行ったものであるし、第8曲の有名な山の魔王の宮殿にての、ゆったりとしたテンポは、あたかも豹が獲物を狙うような凄みがあり、猛烈なアッチェレランドは圧巻のド迫力、合唱団も実に優秀で、最高のパフォーマンスを示している。
第9曲の威容はあたりを振り払うような力強さであり、第10曲の壮絶な迫力にはほとんどノックアウトされてしまう。
それと対照的な第12曲のオーゼの死の情感豊かさは、この指揮者の表現力の幅の広さを大いに感じさせるのに十分だ。
その後に続く音楽も、ここに書ききれないくらい素晴らしいが、特に、第13曲の爽快な美しさ、そして第21曲の帰郷は、圧巻の迫力であるし、第19曲や第26曲のソルヴェイグの歌、子守唄は、北欧音楽ならではの至高・至純の美を誇っている。
なにしろ楽団はアンセルメとの蜜月で知られる名門スイス・ロマンド管弦楽団であり、精妙なのは当然かもしれないが、かくも痛快な解釈でこの名門楽団をまとめてみせる若きフランスの俊英トゥルニエールの才覚には、驚くほかはない。
独唱陣も合唱団も実に上手く、本名演に華を添えているのを忘れてはなるまい。
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2013年09月14日
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尾高忠明&札幌交響楽団による北欧の管弦楽曲集の第2集であるが、これらの作品の魅力を存分に味わうことができる素晴らしい名演だ。
第1集とは異なり、選曲は実に渋い。
グリーグ作曲の『抒情組曲』から4曲を抜粋した管弦楽編曲版にはじまり、グリーグ&シベリウスの「2つの悲しい旋律」と「2つの荘重な旋律」の対比、そしてシベリウスの中期の交響詩を2曲並べた後、シベリウスの最晩年の小品で締めるというラインナップである。
いずれも両作曲家による傑作ではあるが、作品の認知度からすれば、必ずしも有名作品とは言い難いところ。
ところが、尾高は、これらの作品の聴かせどころのツボを心得た、実に見事な演奏を行っている。
これらの楽曲が有する北欧風の旋律を清澄な美しさで歌いあげているのは実に感動的であり、それでいて、例えば、『抒情組曲』の「トロルの行進」や、「夜の騎行と日の出」の冒頭などのように、力強さにおいてもいささかの不足もない。
札幌交響楽団も、尾高の指揮の下、最高のパフォーマンスを示している。
日本の一地方のオーケストラが、これだけの技量を持つのようになったことに、深い感慨を覚えた次第だ。
録音も、マルチチャンネル付きのSACDであり、その極上の高音質録音は、本盤の価値を高めるのに大きく貢献している。
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素晴らしい名演だ。
何よりも、札幌交響楽団の健闘を讃えたい。
10年ほど前までは、地方のオーケストラなど、大阪フィルを除けば、きわめてお寒い限りであったのだが、最近では、この札幌交響楽団も含め、力量的にも大幅な底上げがなされてきているように思う。
その成果の一つが本盤であり、先ず技術的には問題なし。
芸術的にも、尾高忠明の指揮の下、実に感動的な音楽を奏でている。
次いで、マルチチャンネル付きのSACDによる極上の高音質録音を評価したい。
北欧の清澄な音楽には、臨場感溢れる音場が最適であるが、本盤の極上の高音質は、あたかも北欧を吹く一陣の風の如くである。
特に、『ペールギュント』組曲の「オーゼの死」や「ソルヴェイグの歌」の弦楽器の美しさは、筆舌には尽くしがたい素晴らしさだ。
そして、選曲の妙と尾高の指揮の素晴らしさを高く評価したい。
第2集と比較すると、グリーグ&シベリウスの超有名曲を収めているのも好企画である。
それだけに、指揮の質を問われるが、尾高の指揮も、オーソドックスなアプローチではあるものの、聴かせどころのツボを心得た巧みなものであり、聴きなれたこれらの各曲を実に感動的に味わうことができたことを評価したい。
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2013年07月22日
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カラヤンはベルリン・フィルとたびたびグリーグやシベリウスの管弦楽曲を録音したが、当盤はその最初のもの。
カラヤンは、グリーグやシベリウスといった北欧の音楽にも強い関心をもち、得意としていた。
《ペール・ギュント》は、細部まで精緻に磨き抜かれた美しい演奏で、北欧的な詩情や抒情性を丁寧に、しかし、あくまでしなやかに掬いとった巧みな語り口と劇的な表現の対比のうまさも、カラヤンならではのものである。
中でも〈オーゼの死〉や〈ソルヴェイグの歌〉〈イングリッドの嘆き〉などのしっとりと深い情感をたたえた表現は絶品である。
ベルリン・フィルもそうしたカラヤンの指揮に、しなやかな自発性にとんだ演奏で応えており、豊麗であるとともに、あくまで透明な弦の響きと管の名手たちのソロが織りなす色彩がなんとも美しい。
ドイツ語圏の指揮者には珍しく、1950年代からシベリウスの作品を録音していたカラヤンであるが、60年代半ばに録音された管弦楽曲の大半は、当初、交響曲や協奏曲のカップリング曲としてリリースされたものである。
そこでは、静謐な楽想をきめ細かく処理していく一方で、大音量で盛り上がっていく場面でもスマートなスタイルが保たれており、カラヤンの美学とシベリウスの書法が、絶妙な均衡を保ちながら、魅力的な世界を形づくっている。
深々とした響きが印象的な《フィンランディア》をはじめ、弦楽器の雄弁さが光る《悲しきワルツ》や、ゲルハルト・シュテンプニクが絶妙なソロを披露する《トゥオネラの白鳥》など、いずれも名演揃いである。
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2013年05月19日
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古今東西の様々な指揮者の中でも、ネーメ・ヤルヴィほどレパートリーの広い指揮者はいないのではないだろうか。
その旺盛なレコーディング意欲は、高齢になった現在においてもいささかも衰えていないが、これまでに行われた膨大な録音のすべてが名演というわけではない。
一部の音楽評論家が粗製濫造と酷評するほどの凡演はさすがに少ないとは思うが、他の指揮者による演奏を圧倒するような名演ということになると、その数はかなり限定されると言えるのかもしれない。
もっとも、そのようなネーメ・ヤルヴィが、他の追随を許さない名演を成し遂げたジャンルが存在する。
それは、北欧音楽だ。
エストニア出身ということで、祖国の大作曲家トゥヴィンの交響曲全集は依然として燦然と輝く名演であるし、最近手掛けているハルヴォルセンの管弦楽曲集など、名演には事欠かないところだ。
グリーグについても、劇音楽「ペール・ギュント」の全曲録音を含めた管弦楽曲全集を録音(いずれもDG)しているし、シベリウスに至っては、BISレーベルに交響曲を含めた管弦楽曲全集、そしてDGに交響曲全集(SACD仕様)やCD3枚渡る管弦楽曲全集を録音しており、いずれもきわめて水準の高い名演に仕上がっている。
本盤に収められた楽曲は、これらグリーグやシベリウスの各全集から有名なもののみを抜粋したものである。
したがって、演奏が悪かろうはずがない。
いずれの楽曲も、北欧の大自然を彷彿とさせるような豊かな情感と、演出巧者ネーメ・ヤルヴィならではの聴かせどころのツボを心得た明瞭な表現が施された名演と高く評価したい。
手兵のエーテボリ交響楽団も、ネーメ・ヤルヴィの統率の下、素晴らしい演奏を展開しているのも本名演に大きく貢献していることを忘れてはならない。
録音は、従来盤でも十分に満足できる良好な音質であったが、今般のSHM−CD化によって、若干ではあるが音質が鮮明になるとともに音場が幅広くなったように思われる。
ネーメ・ヤルヴィの素晴らしい名演を、SHM−CDによる高音質で味わうことができるのを大いに歓迎したい。
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2012年06月05日
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1956年9月 ロンドンでの録音で、20世紀を代表するピアニスト、ギーゼキングによる歴史的名盤の1つ。
その昔、モノーラルのLPレコードをそれこそ擦り切れるほどに愛聴した記憶のある懐かしい演奏。
抒情小曲全体の半数弱にあたる31曲が、現在では2枚組のCDに収められている。
グリーグが折に触れて書きつづった抒情小曲集は、いずれも豊かな詩情に溢れた佳作であるが、ギーゼキングはそれぞれの曲に実に自然なニュアンスを与えている。
正確なテンポ、たぐいまれな技術を背後に持ちながら曲想を表現してゆく彼の崇高な音楽性が満ち溢れている。
グリーグが日々の思いをさりげなく書き綴ったこれら可憐な小宇宙を、ギーゼキングはまるで1つ1つ慈しむかのように、何と美しく語り伝えていることだろう。
純真素朴な《ワルツ》に始まり、メロディアスな《アルバムのページ》や《メロディ》、あるいは物寂しい《孤独なさすらい人》を経て、やがてこよなく美しい《恋の曲》と名高い《春に寄す》へ……。
どれもギーゼキングの気高い音楽性と清澄なピアノに支えられ、珠玉の名品と化している。
ここに聴くギーゼキングは固有の禁欲性を保ってはいるものの、ナイーヴな情感に感性豊かに反応し得ており、澄みきったような美しさがくっきりと示されているのが印象的である。
ギーゼキング自身の「抒情詩篇」といえるような性格だ。
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2010年02月24日
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ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、時間的に長大なだけでなく、演奏者に肉体的にも精神的にも強靭さが要求されており、またピアニスト、指揮者とオーケストラとの緊密な協調も必要とする至難な協奏曲であるにもかかわらず、優れた演奏が多いのは、演奏家が録音に慎重に対処するためであろう。
ブラームスはオーケストラ・パートが何より素晴らしい。
カラヤンはベルリン・フィルから驚くほどの分厚い迫力を弾き出し、スケールの大きな造形でシンフォニックに鳴らし切っている。
その上やるせない情感の表出も充分だ。
アンダはそのカラヤンの器の中にすっぽりとはまりこんでいる。
優れた音楽性を土台にしたリリシズムと、澄み切った空気のように歪みのない流れがあり、わけてもピアニッシモの美しさは無類といえよう。
グリーグは硬質の澄んだタッチのピアノで、この曲の透きとおるように美しい抒情を十全に表出。
柔和で充実した響きのクーベリックのベルリン・フィルが、さらにそれを支え、総合的に高レベルな演奏となっている。
アンダはクーベリックの指揮するベルリン・フィルの時に湧き立つような流麗なオーケストラにのせてロマン派正統の音楽を聴かせる。
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2009年08月19日
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イプセンの戯曲《ペール・ギュント》への付随音楽は全26曲の構成。そのうちブロムシュテット指揮サンフランシスコ交響楽団による録音は、20曲を抜粋し、独唱、合唱、俳優による語りを加えて物語の全貌を把握できるように工夫されている。
生まれはアメリカだが、スウェーデン国籍を持ちストックホルムで教育を受けたブロムシュテットにとって、ノルウェーの国民的作曲家グリーグの音楽は近しく感じられるに違いない。
1988年にサンフランシスコ交響楽団を指揮して入れたディスクは再録音にあたる。
1977年にシュターツカペレ・ドレスデンを指揮して入れた原語による抜粋盤は組曲の形での演奏が広く行なわれていた当時、まさに画期的なものだった。
この旧盤を通して作品の魅力に開眼した人も少なくないだろう。
重厚かつ艶やかな音色を生かしたドレスデン盤もきわめて充実したものだった。
しかし、サンフランシスコ交響楽団の澄み切った音色はより作品の世界に似つかわしい。
また、そこには11年の間のブロムシュテットの円熟も如実に反映されている。
世界を駆け巡るペールの冒険譚をブロムシュテットは生き生きと描き出すとともに、北欧の音楽ならではの心に染み入るような抒情を醸し出す。
ウルバン・マルムベルイ、マリ=アンネ・ヘガンデルの独唱も北欧人の強みを生かしたすぐれたもの。
ノルウェー民話の世界に心おきなく浸ることが出来る名盤だ。
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2008年12月14日
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リヒテルとマタチッチの唯一の共演盤。
このグリーグは傑作だ。例によってリヒテルが、スケールの大きい音楽世界を繰り広げている。
リヒテルの演奏は、思考の積み重ねの末に再構築されたロマンと言っていいだろう。
ネオ・ロマンティシズムの表現の、ひとつの解答がこの演奏だ。
しばしば拡大されたディティールが前面にせりだしてきて、「おやっ」と思わせる。
知の力が優った演奏だが無感情ではなく、気分の沈潜の有り様について考えさせる不思議な個性にあふれた演奏だ。
遅いテンポと粘ったリズムによる第1楽章は著しくロマンティックで、それに凄まじい気迫と強靭なタッチが加わって表現の幅が増している。
カデンツァの豪壮な再現、聴き手を圧倒しないではおかない凄まじい気迫は、このピアニストならではのものだ。
その一方で、グリーグ特有の憂愁美に彩られた諸主題を、やや遅めに設定されたテンポで、あくまでも優美にしっとりと歌い上げて見せる。
第2楽章はくっきりとしたタッチが美しく、フィナーレは第1楽章とほぼ同様。
剛から柔に至るその幅の広さは、他のピアニストたちに比べると抜きん出ており、それがリヒテルのこの演奏を、「さすが巨匠芸」と認識させるばかりか、作品そのものを巨匠風に感じさせる要因になっている。
マタチッチの指揮も両端楽章の豪快さ、雄大さはその比を見ず、旋律は豊かに歌われ実にふっきれた表現だ。
しかしシューマンは今ひとつ共感できない。
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2008年07月10日
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全10集からギレリスが20曲を選んだもので、ギレリスは暗い情熱を表出しながら、北欧的なファンタジーを濃厚に引き出していて聴かせてくれる。
明晰ながらも暖かく深い音でもって各曲の曲想を描き分けており、その多様な表情のうちにリリカルな詩情が自ずと立ちのぼってくる。
「ノルウェーの踊り」や「家路」などのようなリズミカルな作品では、ギレリスは惚れ惚れとするような鮮やかなリズム感を示す一方、「アリエッタ」や「郷愁」などテンポの遅い曲では間然とするところのない歌を聴かせる。
しかも、少しも構えたところを感じさせない。グリーグの表現した一つ一つの小宇宙に対してギレリスが深い共感と愛情でもって接しているのが伝わってくる。
こうした小曲においては、ギレリスの完成度の高い音楽をたっぷりと楽しむことができる。
これを超えるような演奏はなかなか出てこないのではないだろうか。
ギレリスというとわが国では鋼鉄のピアニストという面ばかりが強調されてきたきらいがある。
確かに彼は強固な技巧と力強いパワーを持っていた。
しかしその一方で、彼が豊かな叙情的感性の持ち主だったことを忘れてはなるまい。
このグリーグの「抒情小曲集」は、ギレリスのそうした叙情的側面を如実に示す素晴らしい1枚だ。
グリーグの小品のロマン的な深みを改めて認識させられるような演奏である。
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2008年02月11日
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グールドがその視線を現代のピアニストとはまったく異なる方面に貪欲に投げかけていたことを示す隠れた名盤。
ゆっくりしたテンポで弾いて、思いのほか深く、しっとりとロマン的情趣に浸っている。
思い入れはグリーグよりビゼーの方がいっそう深く、強い。
ビゼーのピアノ独奏曲をここまで魅力的に聴かせるピアニストは、彼の他にまずあるまい。
シベリウスは非常に珍しいレパートリーだ。
3曲のソナチネはまるでロマン派の抒情小曲のように聴こえる。
シベリウスの換骨奪胎の作業が堂に入っているためで、それをグールドが巧みな表現で魅力ある音楽に仕上げている。
作品として優れ、聴いていてずっと面白いのは「キュッリッキ」で、グールドの感受性はところを得て自由に飛翔し、表現の多彩さ、ピアニスティックな効果、豊かな情感を楽しませてくれる。
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