ピリス

2016年06月21日


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マリア=ジョアン・ピリスがエラートからドイツ・グラモフォンに移籍した後の、アンサンブルの録音をまとめた12枚組で、彼女がこの頃意欲的に取り組んだ他の演奏家との多彩な能力を示した興味深い演奏になる。

このセットのうち9枚までがヴァイオリニスト、オーギュスタン・デュメイとの協演でベートーヴェン及びブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲を始めとするゲルマン系作曲家の作品を中心に収録している。

同時期彼らは集中的なアンサンブルを行っていて、ラテン系の演奏家2人がドイツ物にフレッシュな感性で対応したデュエットに仕上がっている。

デュメイは官能的な表現を得意としているが、ここでも彼の美しい音色を活かして流麗に歌うカンタービレは、フランコ=ベルギー派を受け継ぐ典型的なヴァイオリン奏法だ。

それ故このセットの白眉はCD11のフランク、ラヴェル、ドビュッシーを収めたフランスの作曲家の作品集で、感性を共有するピリスの繊細かつ情熱的な伴奏に、水を得た魚のように大胆で、しかも妖艶な雰囲気を漂わせた魅惑的な演奏を披露している。

彼らの音楽作りには特有の抑揚があって、ベートーヴェンに関しては哲学的な演奏ではないにしても、より自由に解き放たれた演奏と言うことができるだろう。

ドイツ物ではむしろ憂愁に包まれた歌謡性を持ったブラームスのヴァイオリン・ソナタの方が両者には合っているかも知れない。

その意味でCD5でジャン・ワンが入るブラームスのピアノ三重奏曲のドラマティックな展開やCD9で更にヴァイオリンのルノー・カピュソン、ヴィオラのジェラール・コセが加わるシューマンのピアノ五重奏曲は、彼らの濃厚なロマンティシズムの表出で秀逸だ。

しかし一方でCD8のモーツァルトの3曲のピアノ三重奏曲も均整のとれた古典的な演奏が模範的だし、意外にもCD6のグリーグの3曲のヴァイオリン・ソナタが、柔軟に捉えた北欧の舞曲や抒情を湛えた映像的な描写で優れている。

尚最後はチェロのアントニオ・メネセスとのウィグモア・ホールでのジョイント・コンサート・ライヴで、これも気の利いたプログラムによる捨て難い1枚だ。

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2015年08月29日


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フランスのヴァイオリニスト、デュメイとポルトガルのピアニスト、ピリスによるグリーグのヴァイオリン・ソナタ全3曲を収録したアルバム。

グリーグ生誕150年記念として、1993年にベルリンで録音され大絶賛を受けた傑作である。

グリーグの3つのヴァイオリン・ソナタはいずれも美しい作品であるが、なぜか録音される機会が少なく、最も高名な第3番でも、新録音のニュースにはあまりお目にかからない。

これらのソナタにはしばしば構造的な欠点が指摘される。

その「欠点」は、これらのソナタに、と言うより、グリーグの作品全般に言われることだが、対位法的な処理があまり行われず、音楽が展開力に乏しいことであるが、逆にグリーグの美点として「美しいメロディ」を創作する能力があった。

そのため、グリーグの全作品を俯瞰すると、圧倒的に多いのが「小品」であり、メロディだけに紡がれた、大きな展開のない音楽だ。

逆に本格的なソナタ形式を踏襲するような規模の大きい作品は極端に少なく、交響曲は習作とされる1曲のみだし、ピアノ・ソナタとピアノ協奏曲がいずれも名品だけれど、たったの1曲ずつ。

そのような背景にありながら、なぜかヴァイオリン・ソナタだけは3曲もあり、この事実は結構重要な気がする。

グリーグが自ら「不向き」と考え、ごく限られたインスピレーションのみを還元していたジャンルにあって、なぜかヴァイオリン・ソナタのみが豊作なのである。

「ヴァイオリン」と「ピアノ」という2つの「歌う」楽器の合奏に、メロディ主体で楽曲を構成できる調和を見出したのかもしれない。

しかしそのヴァイオリン・ソナタも、よく構造的な欠陥が指摘されており、例えば、1つの主題から別の主題に移る際の音楽的な処理は、しばしば「カット」され、ただの「ジャンプ」になってしまっていたりする。

しかし、これらのヴァイオリン・ソナタを彩る旋律は本当に美しいのだ。

だから、上記の様な不自然な音楽的欠陥があっても、筆者はこれらのソナタをとても楽しむことができるし、いろいろな想像をかきたてさせてくれるものだと思っている。

それで、その入手可能なディスクで有力な大御所による録音となると、このデュメイとピリスによるものとなる。

デュメイの演奏は、持ち前の超絶的な技巧をベースに、緩急自在のテンポ設定、思い切った強弱の変化、心を込め抜いた節回しや時として若干のアッチェレランドなどを交えつつ、楽曲の細部に至るまで彫琢の限りを尽くした演奏を展開しており、その情感豊かで伸びやかな表現は自由奔放で、なおかつ即興的と言ってもいいくらいのものである。

そして、このようなデュメイの個性的なヴァイオリン演奏をうまく下支えしているのがピリスのピアノ演奏である。

ピリスのアプローチは、各楽曲の北欧風の詩情に満ち溢れた旋律の数々を、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで美しく描き出していくというものだ。

その演奏は純真無垢とさえ言えるものであり、世俗の穢れなどはいささかも感じさせず、あたかも純白のキャンバスに水彩画を描いていくような趣きさえ感じさせると言えるだろう。

特に緩徐楽章の郷愁に満ちたメロディが、清涼感に満ちた爽やかな佇まいをもって示されているのは、たいへん好ましいと思う。

作為を感じさせない自然なニュアンスに満ちていて、まるで夏の木陰で、涼やかな風を受けているような心地よい響きなどたいへん魅惑的な演奏だ。

ソナタ第2番の終楽章の輝かしさも忘れ難い。

それにしても、もっと多くのヴァイオリニストに、これらのグリーグのヴァイオリン・ソナタを録音してほしいと願う。

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2015年07月18日


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シューベルトの抒情的特質が最も純粋な形で発揮されたD.899、シューマンが曲集全体をひとつのソナタとみなしたこともあるD.935。

霊感溢れる楽想が凝縮した即興曲集は、シューベルトのピアノ曲のなかでも最も人気の高い清冽な詩情と孤独な心情を美しく謳い上げたピアノ芸術のエッセンスとも言える作品。

マリア・ジョアン・ピリスによる新鮮で瑞々しい表現による演奏解釈は従来から高く評価されており、聴き手をシューベルトの詩的な世界に誘う素晴らしい名演だ。

即興曲集は、楽興の時と並んでシューベルトのピアノ作品の中でも最も人気の高いものであるが、楽興の時とは異なり、一聴すると詩情に満ち溢れた各フレーズの奥底には作曲者の行き場のない孤独感や寂寥感が込められており、最晩年の最後の3つのピアノ・ソナタにも比肩し得る奥深い内容を有する崇高な作品とも言える。

したがって、かかる楽曲の心眼に鋭く踏み込んでいく彫りの深いアプローチを行うことは、同曲の演奏様式としての理想の具現化と言えるところであり、かかるアプローチによる演奏としては内田光子による彫りの深い超名演(1996年)が掲げられるところだ。

これに対して、ピリスのアプローチは、内田光子のように必ずしも直接的に楽曲の心眼に踏み込んでいくような彫りの深い表現を行っているわけではない。

むしろ、同曲の詩情に満ち溢れた旋律の数々を、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで美しく描き出していくというものだ。

その演奏は純真無垢とさえ言えるものであり穢れなどはいささかもなく、あたかも純白のキャンバスに水彩画を描いていくような趣きさえ感じさせると言えるだろう。

ペダルコントロールも絶妙の巧さで、1音1音丁寧な指運から紡ぎ出されるピリスの音はどこまでも透明で柔らかく、心に優しく響きわたる。

もっとも、ピリスのピアノは各旋律の表層をなぞっただけの美しさにとどまっているわけではない。

表面上は清澄なまでの繊細な美しさに満ち溢れてはいるが、その各旋律の端々からは、同曲に込められた寂寥感が滲み出してきている。

ピリスは、音の1つ1つ、音型の1つ1つ、フレーズの1つ1つ、など、とても緻密に徹底した解釈をし、練り上げていくのだろう。

彼女の作り上げるそれらは、“自分はここをこう弾きたい”というメッセージを目一杯含み、聴き手に投げかけてくる。

型通り弾く人たちが多いなか、たとえばモーツァルトにしても、ショパンにしても、ピリスは雰囲気中心で弾くことは決してないし、かといってクールで理詰めな演奏をするわけでもない。

さて、今回のシューベルトも、基本的にはそうしたピリスの特質が色濃く表われた演奏で、よく考え抜かれ、それが演奏者の頭だけでなく、耳と体を通して発せられている、ということがよく分かる。

ピリスがシューベルトの音楽に対してどのような思い入れを持ち、どのように好んでいるかが、1つ1つの音から、フレーズから、全体から、よく伝わってくる、密渡の濃い演奏になっていると思う。

このようなピリスによる本演奏は、まさにかつてのリリー・クラウスの名演(1967年)に連なる名演と評価し得るところであり、即興曲集の演奏史上でも、内田光子の名演は別格として、リリー・クラウスによる名演とともに上位を争う至高の超名演と高く評価したいと考える。

録音は従来盤でも十分に満足できる高音質であったが、今般のSHM−CD化によって、ピリスのピアノタッチがより鮮明に再現されるとともに、音場が幅広くなったように思われる。

いずれにしても、ピリスによる至高の超名演を、SHM−CDによる高音質で味わうことができるのを大いに歓迎したい。

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2015年06月22日


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本盤には、デュメイがピリスと組んで1997〜2002年にかけてスタジオ録音を行ったベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集のうち、爽やかな明るさやロマン的な幸福感に溢れる第5番「春」と劇的緊張感と圧倒的な迫力が充実した世界を形作る第9番「クロイツェル」という最も有名な2曲が収められている。

デュメイとピリスという息の合った名コンビが全10曲の録音に5年もの長期間を要したということは、デュメイ、そしてピリスがいかに慎重を期してベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの演奏・録音に望んだのかを窺い知ることが可能だ。

デュメイとピリスの音楽的出会いから、その後の12年にわたる2人の歩みが結実したベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ集。

ふたりが1990年代の初頭に初めて共演して意気投合した作品がベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタであったことを裏付けるような、深い味わいを湛えた演奏を繰り広げている。

ところで、常々のデュメイのヴァイオリン演奏は超個性的である。

持ち前の超絶的な技量をベースに、緩急自在のテンポ設定、思い切った強弱の変化、思い入れたっぷりの濃厚な表情づけや、時としてアッチェレランドなども駆使するなど、楽曲の細部に至るまで彫琢の限りを尽くした演奏を展開しており、その躍動感溢れるとともに伸びやかで情感豊かな表現は、即興的で自由奔放と言ってもいいくらいのものだ。

しかしながら、本演奏では、楽曲がベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタだけに、その片鱗を感じさせる箇所は散見されるものの、どちらかと言えば他の楽曲の演奏のような奔放さは影を潜めていると言えるのではないだろうか。

むしろ、演奏全体の基本的なスタンスとしては、真摯に、そして精緻に楽想を描いていくのに徹しているようにさえ感じられる。

しかしながら、スコアの音符の表層をなぞっただけの薄味な演奏にいささかも陥っておらず、各フレーズの端々にはフランス風のエスプリ漂う瀟洒な味わいが満ち溢れており、このような演奏全体を支配している気品と格調の高さは、フランス人ヴァイオリニストでもあるデュメイの真骨頂であると言えるだろう。

そして、かかるセンス満点のデュメイのヴァイオリン演奏の魅力を、より一層引き立てているのがピリスによる名演奏である。

常々のピリスのピアノ演奏は、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで曲想を美しく描き出していくというものであり、シューベルトやショパンなどの楽曲においてその実力を十二分に発揮しているが、本盤のベートーヴェンの演奏においては、そうした繊細な美しさにとどまらず、強靱さや重厚さも垣間見られるところであり、いい意味での剛柔バランスのとれた堂々たるピアニズムを展開していると言えるだろう。

そして、ピリスの場合は、いかなるフォルティッシモに差し掛かっても、1音1音に独特のニュアンスが込められるとともに、格調の高さをいささかも失うことがないのが素晴らしい。

この素晴らしい名コンビの演奏は、常に聴き手の心をあたたかくし、深い感動を呼び起こす。

いずれにしても、本演奏は、様々な同曲の演奏の中でも、フランス風のエスプリ漂う洒落た味わいや格調の高い美しさを湛えた素晴らしい名演と高く評価したい。

音質は、従来盤でも十分に満足できるものであったが、今般のSHM−CD化によって、デュメイのヴァイオリンの弓使いやピリスのピアノタッチがより鮮明に再現されるとともに、音場がより一層幅広くなったように思われる。

いずれにしても、デュメイ、そしてピリスによる至高の名演を、SHM−CDによる高音質で味わうことができるのを大いに歓迎したい。

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2015年03月17日


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筆者は、本盤の演奏内容については、既に以下のようなレビューを投稿済みである。

「若き日のピリスによる素晴らしい名演だ。

ピリスは、ショパンのピアノ協奏曲第1番をクリヴィヌ&ヨーロッパ室内管弦楽団とともにスタジオ録音(1997年)、ピアノ協奏曲第2番をプレヴィン&ロイヤル・フィルとともにスタジオ録音(1992年)しており、それらはいずれも見事な名演として高く評価されるべきものであるが、本盤に収められた演奏も、それら後年の演奏にはない初々しさや清新さに満ち溢れた独特の魅力があると言えるのではないだろうか。

ピリスの本演奏におけるアプローチは、後年の演奏のように必ずしも楽曲の心眼に踏み込んでいくような彫りの深い表現を行っているわけではない。

むしろ、若さの成せる業とも言える側面も多分にあると思われるが、両曲の随所に聴かれる詩情に満ち溢れた美しい旋律の数々を、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで美しく描き出していくというものである。

その演奏は純真無垢とさえ言えるものであり穢れなどはいささかもなく、あたかも純白のキャンバスに水彩画を描いていくような趣きさえ感じさせると言えるだろう。

もっとも、ピリスのピアノ演奏は、若き日の演奏と言えども、各旋律の表層をなぞっただけの美しさにとどまっているわけではない。

表面上は清澄なまでの繊細な美しさに満ち溢れてはいるが、その各旋律の端々からは、ショパンのピアノ曲において顕著な望郷の思い、人生における寂寥感のようなものが滲み出してきている。

加えて、どのような哀愁に満ちた旋律に差し掛かっても、いわゆるお涙頂戴の哀嘆調には陥ることなく、常に気品と格調の高さをいささかも失わないのが素晴らしい。

指揮者のジョルダンも、こうしたピリスのセンス溢れる見事なピアノ演奏を巧みに引き立てつつ、二流のオーケストラとも言うべきモンテカルロ国立歌劇場管弦楽団をしっかりと統率して、好パフォーマンスを発揮しているものと評価したいと考える。

いずれにしても、本演奏は、若き日のピリスが、その前途洋々たる将来性を世に知らしめるのに貢献した素晴らしい名演として高く評価したい。」

そして、これだけの素晴らしい名演だけに、これまで高音質化が望まれてきたところであるが、長らくリマスタリングなども行われず、いささか残念な気がしていたところであったが、今般、SACD化がなされたというのは、演奏の素晴らしさからしても極めて意義が大きいと言えるだろう。

音質の鮮明さ、音場の幅広さ、そして音圧のいずれをとっても超一級品の仕上がりであると言えるところであり、とりわけ若き日のピリスによる瑞々しさを感じさせるピアノタッチが鮮明に再現されるとともに、ピアノ演奏とオーケストラ演奏が明瞭に分離して聴こえるのは殆ど驚異的である。

いずれにしても、若き日のピリス、そしてジョルダン&モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団による素晴らしい名演を高音質SACDで味わうことができるのを大いに喜びたい。

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2015年02月25日


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実に素晴らしいCDが発売された。

アバドとピリスは若い頃から長年にわたって共演を行ってきたお互いを知り尽くした名コンビであるが、その関係の更なる深化を十分に窺い知ることができる演奏になっていると言えるだろう。

先ずは、アバドの近年の充実ぶり、そして円熟ぶりに目を見張らされる。

ベルリン・フィルの芸術監督に就任後は、鳴かず飛ばずの低迷期に陥り、多くの音楽評論家から民主的とは名ばかりの「甘ちゃん指揮者」などといった芳しからざる綽名を付けられたものであるが、大役の心労から胃癌にかかり、それを克服した後は、それまでとは打って変わったような深みのある名演奏を成し遂げるようになった。

ベルリン・フィルの芸術監督退任後は、主として若くて才能のある奏者とともに、それこそ自らが志向していた「民主的」という名の共に演奏を行うという基本的なスタンスが見事に花を咲かせたと言えるだろう。

本盤においてオーケストラ演奏をつとめているモーツァルト管弦楽団も、2004年にアバドが設立した18歳から26歳までの若手奏者のみで構成される団体であり、アバドを心から慕う奏者とともに、実に楽しげに、そして時には真摯かつ緊張感を持って、モーツァルトの素晴らしい音楽を共に演奏を行っていることが素晴らしい。

そして、ピリスのピアノ演奏も見事。

かつては、女流ピアニストならではの繊細が全面に出たピアニストであり、線の細さを感じさせたものであるが、近年のピリスには線の細さなどいささかも感じさせられることはない。

それどころか、第20番におけるテンポの効果的な振幅を駆使したドラマティックな表現は、強靭な迫力を誇っており、演奏の持つ根源的な力強さは、かつての若きピリスとは別人のような堂々たるピアニズムであると評価し得る。

第27番の澄み切った音楽も、ピリスは持ち前の表現力の幅の広さを活かし、センス満点の細やかなニュアンスを随所に織り込みつつ、きわめて濃密な表現を持って曲想を描き出すのに成功している。

そして、このように真摯かつ彫りの深い演奏を行いつつも、アバド&モーツァルト管弦楽団の演奏とともに楽しげに演奏をするという姿勢も失うことがないのである。

いずれにしても、本盤の演奏は、円熟の境地を迎えたアバド、そしてピリス、そして若き才能のある音楽家が集まったモーツァルト管弦楽団が一体となって、音楽を奏でる楽しさを常に保ちつつ、共に良き音楽を作り上げようと協調し合ったことによって生み出された、珠玉の名演であると高く評価したい。

アバドが生涯に渡って追求し続けた演奏とは、まさに本演奏のようなものであったであろうし、ピリスとしても、会心の出来ではないかと思われるところだ。

音質も、ピアノ曲との相性抜群のSHM−CD盤であり、十分に満足し得るものであると評価したい。

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2014年08月20日


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本盤には、デュメイがピリスと組んでスタジオ録音を行った、フランク及びドビュッシーのヴァイオリンソナタ、そしてラヴェルのツィガーヌ等といった、フランスを代表するヴァイオリン曲が収められている。

いずれも、至高の超名演と高く評価したい。

デュメイのヴァイオリン演奏は超個性的だ。

持ち前の超絶的な技巧をベースに、緩急自在のテンポ設定、思い切った強弱の変化、心を込め抜いた節回しや時として若干のアッチェレランドなどを交えつつ、楽曲の細部に至るまで彫琢の限りを尽くした演奏を展開しており、その情感豊かで伸びやかな表現は自由奔放で、なおかつ即興的と言ってもいいくらいのものである。

楽曲のトゥッティに向けて畳み掛けていくような気迫や生命力にも申し分のないような力強さが漲っており、かかる強靭さや繊細な抒情に至るまで、表現力の幅は桁外れに広い。

また、各フレーズに込められたフランス風のエスプリ漂う美しい情感は、いかにもフランス人ヴァイオリニストならでは瀟洒な味わいに満ち溢れており、デュメイの自由奔放とも言うべき即興的な超個性的演奏に、気品と格調の高さを付加しているのを忘れてはならない。

そして、このようなデュメイの個性的なヴァイオリン演奏をうまく下支えしているのがピリスのピアノ演奏である。

ピリスのアプローチは、各楽曲のフランス風の詩情に満ち溢れた旋律の数々を、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで美しく描き出していくというものだ。

その演奏は純真無垢とさえ言えるものであり、世俗の穢れなどはいささかも感じさせず、あたかも純白のキャンバスに水彩画を描いていくような趣きさえ感じさせると言えるだろう。

もちろん、柔和な表情を見せるのみならず、重厚な強靭さにおいてもいささかも不足はなく、いい意味での剛柔バランスのとれた名演奏を行っていると評価したい。

そして、このようなデュメイのヴァイオリンとピリスのピアノという両者の極上の名演奏が見事に融合した結果、おそらくは本盤に収められた各楽曲の演奏史上最も格調が高く、そしてフランス風のエスプリ漂う美しさの極みとも言うべき至高の超名演を成し遂げるに至ったのだと考える。

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2014年07月21日


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若き日のピリスによる素晴らしい名演だ。

ピリスは、ショパンのピアノ協奏曲第1番をクリヴィヌ&ヨーロッパ室内管弦楽団とともにスタジオ録音(1997年)、ピアノ協奏曲第2番をプレヴィン&ロイヤル・フィルとともにスタジオ録音(1992年)しており、それらはいずれも見事な名演として高く評価されるべきものであるが、本盤に収められた演奏も、それら後年の演奏にはない初々しさや清新さに満ち溢れた独特の魅力があると言えるのではないだろうか。

ピリスの本演奏におけるアプローチは、後年の演奏のように必ずしも楽曲の心眼に踏み込んでいくような彫りの深い表現を行っているわけではない。

むしろ、若さの成せる業とも言える側面も多分にあると思われるが、両曲の随所に聴かれる詩情に満ち溢れた美しい旋律の数々を、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで美しく描き出していくというものである。

その演奏は純真無垢とさえ言えるものであり穢れなどはいささかもなく、あたかも純白のキャンバスに水彩画を描いていくような趣きさえ感じさせると言えるだろう。

もっとも、ピリスのピアノ演奏は、若き日の演奏と言えども、各旋律の表層をなぞっただけの美しさにとどまっているわけではない。

表面上は清澄なまでの繊細な美しさに満ち溢れてはいるが、その各旋律の端々からは、ショパンのピアノ曲において顕著な望郷の思い、人生における寂寥感のようなものが滲み出してきている。

加えて、どのような哀愁に満ちた旋律に差し掛かっても、いわゆるお涙頂戴の哀嘆調には陥ることなく、常に気品と格調の高さをいささかも失わないのが素晴らしい。

指揮者のジョルダンも、こうしたピリスのセンス溢れる見事なピアノ演奏を巧みに引き立てつつ、二流のオーケストラとも言うべきモンテカルロ国立歌劇場管弦楽団をしっかりと統率して、好パフォーマンスを発揮しているものと評価したい。

なお、当盤は、先般SACD化されて好評のようであるが、この従来盤でも十分鑑賞に耐え得る音質と言えるところである。

いずれにしても、本演奏は、若き日のピリスが、その前途洋々たる将来性を世に知らしめるのに貢献した素晴らしい名演として高く評価したい。

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2014年04月02日


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本盤には、デュメイがピリスと組んで1997〜2002年にかけてスタジオ録音を行ったベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集が収められている。

全10曲の録音に5年もの長期間を要したということは、デュメイ、そしてピリスがいかに慎重を期してベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの演奏・録音に望んだのかを窺い知ることが可能だ。

常々のデュメイのヴァイオリン演奏は超個性的であると言える。

持ち前の超絶的な技量をベースに、緩急自在のテンポ設定、思い切った強弱の変化、思い入れたっぷりの濃厚な表情づけや、時としてアッチェレランドなども駆使するなど、楽曲の細部に至るまで彫琢の限りを尽くした演奏を展開しており、その躍動感溢れるとともに伸びやかで情感豊かな表現は、即興的で自由奔放と言ってもいいくらいのものだ。

しかしながら、本演奏では、楽曲がベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタだけに、その片鱗を感じさせる箇所は散見されるものの、どちらかと言えば他の楽曲の演奏のような奔放さは影を潜めていると言えるのではないだろうか。

むしろ、演奏全体の基本的なスタンスとしては、真摯に、そして精緻に楽想を描いていくのに徹しているようにさえ感じられる。

しかしながら、スコアの音符の表層をなぞっただけの薄味な演奏にいささかも陥っておらず、各フレーズの端々にはフランス風のエスプリ漂う瀟洒な味わいが満ち溢れており、このような演奏全体を支配している気品と格調の高さは、フランス人ヴァイオリニストでもあるデュメイの真骨頂であると言えるだろう。

そして、かかるセンス満点のデュメイのヴァイオリン演奏の魅力を、より一層引き立てているのがピリスによる名演奏である。

常々のピリスのピアノ演奏は、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで曲想を美しく描き出していくというものであり、シューベルトやショパンなどの楽曲においてその実力を十二分に発揮しているが、本盤のベートーヴェンの演奏においては、そうした繊細な美しさにとどまらず、強靱さや重厚さも垣間見られるところであり、いい意味での剛柔バランスのとれた堂々たるピアニズムを展開していると言えるだろう。

そして、ピリスの場合は、いかなるフォルティッシモに差し掛かっても、一音一音に独特のニュアンスが込められるとともに、格調の高さをいささかも失うことがないのが素晴らしい。

いずれにしても、本演奏は、様々な同曲の演奏の中でも、フランス風のエスプリ漂う洒落た味わいや格調の高い美しさを湛えた素晴らしい名演と高く評価したい。

音質は、従来盤でも十分に満足できるものと言える。

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2012年07月05日


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本盤にはショパンの「前奏曲集」とシューベルトの「楽興の時」が収められているが、いずれも素晴らしい名演だ。

特に、シューベルトの「楽興の時」については、同曲演奏史上でもトップの座を争う至高の超名演。

「楽興の時」は、「即興曲集」と並んでシューベルトのあまたのピアノ作品の中で最も人気の高いものであるが、「即興曲集」のように作曲者の行き場のない孤独感や寂寥感が込められた奥深い内容を有するものというよりはむしろ、楽曲の標題のとおり愉悦性とともに、詩情に満ち溢れた美しさが際立った作品である。

ピリスによる本演奏におけるアプローチは、同曲の詩情に満ち溢れた旋律の数々を、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで美しく描き出していくというものだ。

その演奏は純真無垢とさえ言えるものであり穢れなどはいささかもなく、あたかも純白のキャンバスに水彩画を描いていくような趣きさえ感じさせる。

そして、そのような美しさが、いわゆるスコアに記された音符の表層を取り繕っただけの薄味のものではなく、一音一音に独特のニュアンスが込められるとともに、どこをとっても格調の高さを失っていない点が素晴らしい。

また、同曲においても時として聴くことが可能な寂寥感の描出についても、お涙頂戴の陳腐な哀嘆調に陥るということはいささかもなく、ピリスならではの気品を感じさせるのが見事である。

正にピリスによる本演奏は、シューベルトの「楽興の時」の演奏の理想像の具現化と言えるところであり、今後とも本演奏を超える名演を成し遂げることは至難の業だ。

一方、ショパンの「前奏曲」も名演だ。

ただ、同曲については、かつてのルービンシュタインをはじめ海千山千の大ピアニストが素晴らしい名演を成し遂げており、ピリスによる本演奏を随一の名演とするのは困難である。

もっとも、本演奏においては、ピリスならではの詩情に満ち溢れた清澄な美しさに加えて、女流ピアニスト離れした強靭な打鍵による重厚な迫力も垣間見せるなど、各曲の描き分けが実に巧みであり、本演奏を名演と評価するのにいささかも躊躇するものではない。

音質は従来CD盤でも十分に満足できる高音質であったが、今般のSHM−CD化によって、ピリスのピアノタッチがより鮮明に再現されるとともに、音場が幅広くなったように思われる。

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2011年02月15日


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《旅人》なんていうタイトルが付けられていて、詩などが添えられているのを別にすれば、実に見事に整った即興曲集だ。

音楽が厳しい美しさに貫かれ、演奏がそれを十全に出しているのだから、それ以上の衣裳は邪魔というもの。

しかし、ピアニスト自身がそうしたくなるほど、これらの曲には深い憂愁がたたえられている。

シューベルトは30代で死んでいるのに、どうしてこんな絶望にとらえられてしまったのだろう?

もっとも、ピリスの演奏の良さは、その絶望感や悲しさを、深く追い求めようとしないところにある。

なるほど詩を書けばこういう効用があるのか。

ぎりぎりのところで軽やかな足どりが維持され、深淵のこちら側に美がとどまる。

シューベルトのピアノ曲は、性格的小品はもとよりソナタでさえ、抒情に流されるのが世の常で、いわゆるロマンティックな演奏に傾きやすい。

女流ピアニストだけでなく、男性ピアニストもそうである。

そうした風潮のなかでピリスは、シューベルトの音楽世界を感覚的に捉えてよしとするのではなく、それを完全に自身の血肉と化した演奏を心掛けているようだ。

この《即興曲集》は、シューベルトに内在している"歌"を、ピリスが慎み深く歌い上げた演奏の典型である。

イヴ・シモンの小説の一部を引用し、シューベルトを旅人にたとえたピリスは、彼の孤独な心の旅をたどるかのように、ひとつひとつのフレーズを深々と掘り下げ、ニュアンス豊かに紡ぎ出す。

スリムな外見を支えているピリスのヒューマンな感情、それが聴き手の心を満たしてくれる。

小粒ながらピリリとした演奏がピリスの身上。その持ち味がたっぷり楽しめる。

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2011年02月03日


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ブラームスの《ヴァイオリン・ソナタ》全3曲を収めたこのアルバムで、絶妙なアンサンブルを聴かせるのは、オーギュスタン・デュメイとマリア・ジョアン・ピリス。

ヴァイオリン、ピアノとも、このところ著しい充実を如実に示した演奏の出来ばえだ。

デュメイはラテン的で洗練された表現力と包容力豊かな音楽性、磨きぬかれた美音を駆使して、上品で味わい深い音楽を語りついでいくヴァイオリニスト。

ピリスは明快なタッチによる清冽な音と響き、シャープな感受性と緻密な表現力で集中力の高い演奏を聴かせるピアニストである。

デュメイの語り口はのびやかで、細部まで神経が行き届き、ふくよかな表情が美しい。

ピリスははつらつとしており、感覚の冴えをみせ、前向きの姿勢に貫かれていて、音楽をひきしめている。

両者の呼吸の整えかたも好ましい。

デュメイとピリスはともにラテン的な感性を持ち、それが合わさって従来の重厚なイメージのブラームスの音楽を大きく塗り替えることに成功した。

しかし、注意深く耳を傾けると両者の個性はかなり異なっていることにも気付く。

洗練された表現によって美しく旋律を歌わせるデュメイに対し、ピリスのピアノはもっと磨き澄まされた切れ味の鋭さがあるのだ。

その両者の持ち味の違いが時に協奏的に個性を主張し、デュオをより重層的なものにしているのである。

本質的に異質の2人が密度の高いデュオを実現させ、個性豊かなブラームスを繰り広げている。

ブラームスの音楽の構造をしっかりと守りながら、そこに巧みに色彩を付与したこの演奏を、南の世界への憧れを抱いていたブラームスが聴いたならばきっとおおいに喜んだことだろう。

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2010年07月06日


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ショパンが初期から後期に至るまで書き続けた「夜想曲」は全21曲が残されているが、ショパンの作品の中でも夜想曲を演奏することは特に至難の業である。

曲の表面に流されて、ともすれば、過剰にセンチメンタルになったり、曲の内部まで掘り下げずに終わってしまうからだ。

その点、このピリスの演奏はきわめて完成度が高い。

ショパンはもともとピリスの得意とするレパートリーだが、このアルバムでは特に円熟味を増した彼女の良さが生きている。

ピリスのレパートリーの中にはロマン派の作品も多く含まれ、中でもショパンは重要な位置を占めているのだが、そのわりに録音が少ないために一般的にはそれほど知られていないように思われる。

彼女の最も新しいこの《夜想曲全集》は、ピリスの演奏するショパンがいかに美しいかを改めて実感させてくれる。

ピリスは自然体でありながら、情感豊かに、さまざまな形式で書かれた1曲1曲の特質を適確にとらえ、多彩な内容を格調高く描き出している。

モーツァルトと同様に、美しい音色を基底として、その上に各曲の性格を巧みに弾き分けている知的な読みの深さが感じられる。

ピリスが当代一流の"モーツァルト弾き"であるのみか、ある意味で比類ないほどの"ショパン弾き"でもある事実を、如実に示したのがこの《夜想曲全集》だった。

ノクターンは決して、ショパンがこまやかな詩情のみを注ぎ込んだ音楽ではない。

これら21曲のうちに、ショパンはその情熱、意志の力、劇的な昂揚感のすべてをも托したのである。

このことを深く感じ取り、すべてをふさわしく表現できるピアニストを、あるいはショパンは待ち望んでいたのかもしれない。

そして、ここに、このポルトガル女性が現われた、とまで、聴きながら思ったものである。

すべてのノクターンが、1曲の例外もなく、それぞれの「いのち」を息づいている!

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2009年03月19日


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"モーツァルト弾き"として有名なピリスだが、この演奏には、いかにも彼女らしい自然さがあらわれており、好感がもてる。

清楚であたたかな感触が素敵だ。

情感豊かで洗練された演奏で、多くの人を魅了するショパンを弾くのがピリスだ。

でもこのワルツ集は、現在のようになる前のピリスによって弾かれている。

もしかしたら、その後のピリスの演奏を知った者にとってこそ、良さが分かるのかもしれない。

円熟する前の、若々しく、生気に富んだショパンのワルツだ。

深く掘り下げ、繊細な表情をつくり出すかわりに、生き生きした感覚を信じて弾いている、直線的な演奏の良さがある。

14曲を収めているが、リパッティ盤同様、配列をかえており、いわれてみると、かのリパッティの演奏をモデルとしているように感じられるところもあり、音楽の一貫した流れを大切にしている。

まったくためらわずにワルツの動きに身を委ねるところなど、若いピリスの新鮮な感性がショパンの音楽の弾力性を引き出しているようで、聴き進むうちに、この決して健康的ではないように思える音楽に、すがすがしい気分にさせられてしまうことになる。

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2009年02月15日


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ピリスの新盤は、特に注目したい演奏で、すべてが秀演、名演である。

大きく成長した最近のこの女流ピアニストの充実ぶりを鮮明に伝えるレコーディングの一つであるこの演奏では、彼女の到達した高い境地が如実に示されているといっても過言ではないだろう。

ピリスは新しいグラモフォンへの録音で、モーツァルトのソナタの世界により深く入っているように聴こえる。

ソナタのそれぞれがモーツァルトの時々の心を映しているのにすばらしく感応して、その微妙な世界の違いを浮き上がらせていく。

そこでは、ピリス特有の繊細さや鋭さは以前と同様に保たれていながらも、かつての彼女につきまといがちであった神経質さが消え、表現のスケールと音楽の広がりが一まわりも二まわりも大きくなっている様相をはっきりと感じ取ることができる。

1フレーズ、1音に絶えず生命が息づき、微妙な表情に満ちた奏楽を生み出すピリスの能力は、以前にも増して冴えわたっている。

そしてモーツァルトに必要な優美さ、繊細さ、柔軟さを十分に表現すると同時に、一種のきりりとした闊達な性格も表す。

第3、8番の中間楽章で聴かれるデリカシーの極みも、生命力にあふれる奏楽と表裏一体になっていればこそ、いっそう胸に染みるのだ。

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2008年01月03日


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ピリスがドイツ・グラモフォンに録音したモーツァルトのピアノ・ソナタ全集はすべてが秀演・名演であるが、私は旧盤に示されたピリスの比類のないモーツァルティアンな感性にすでに完成の姿をみていた。

この旧録の全集はソナタ18曲と有名な幻想曲2曲、ロンド2曲を収録している。

ピリスはこの録音のあと、一時病気のため演奏活動を休止していたが、近年また再開し、来日や録音も活発になってきたのはうれしい。

この全集は来日時に東京で録音されたもので、版もヘレン社の新全集に基づいている。

彼女はけっして《則》を超えず、しかもその中で演奏家としての自己主張をきちんと行う数少ないピアニストだ。

ピリスのモーツァルトに聴く精神的な純粋性と演奏の完璧性は、まさに驚くべきものだ。

この全集でも、モーツァルトの音楽に対する深く直観的な理解、清潔すぎるほどの端正な様式感、そして見事に音と響きのコントロールを、より若々しい姿で充分に聴くことができる。

ホームグラウンドを離れ、しかも短期間で、よくこれだけ立派な演奏を残してくれたものだ。

76年度の仏ADFディスク大賞、77年度のオランダ・エジソン賞などを受賞している。

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