ハスキル

2015年09月06日


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ケースの裏面にステレオ・ライヴ・アナログ・ブロードキャスト・マスターテープからのDSDマスタリングという表示がある。

いずれも保存状態の極めて良好なオリジナル・オープンリール磁気テープから制作されたSACDで『スペインの庭の夜』が1960年、『はかなき人生』及び『三角帽子』が1961年の録音と記されている。

このディスクもSACD化の成功例と言える分離状態の良い音像とホールの奥行きを感じさせる立体感や低音から高音までのむらのない鮮明な音質で、マヌエル・デ・ファリャの3曲の歴史的名演が蘇っている。

1曲目の『スペインの庭の夜』は愛国心を煽るような熱狂的な作風ではなく、むしろスペイン風の趣味を織り込んだファンタジーに昇華された独奏ピアノと管弦楽のための魅力的な作品で、ドビュッシーの同様の楽器編成による『ファンタジー』に共通するものがある。

ハスキルのレパートリーの中では異色ながら、マルケヴィチの好サポートと相俟ってLP時代から名盤の誉れ高いもの。

指揮者イーゴリ・マルケヴィチはウクライナ生まれだがパリで教育を受け、その後も主としてラテン系のオーケストラで研鑽を積んだ経歴を持っているだけあって、ファリャにおいても決して他人行儀ではない洗練された音楽性と鋭敏な感性を手兵コンセール・ラムルーに託した演奏に高い価値がある。

またソロ・パートを弾くクララ・ハスキルにはラテン的な感受性と共に神々しいような神秘的な表現が共存していて、この曲でもパワーではなく、特有のカリスマ性を発揮して聴き手を惹きつけてしまう。

同曲のピアノ・パートは難技巧と、ギターなどスペイン音楽のイディオムが盛り込まれているため、弾き手を選ぶ音楽と言えるが、ハスキルは死の直前の演奏ながらタッチは力強く明快で、大編成のオーケストラと真っ向から張りあっている。

ハスキルのピアノは、通常この作品で演じられる濃厚な官能性はなく、端正かつ清明で、まるでモーツァルトのようだが、意外なスペイン気質も感じさせ感動的。

マルケヴィチの充実ぶりも素晴らしく、複雑なオーケストレーションを見事に統率、熱き血のたぎる盛り上がりを見せている。

テープに起因するヒスノイズは感じらるものの、SACD化により各楽器の解像度が格段に向上してぐっと接近し、物凄いエネルギーまで放つようになったのが驚きだ。

一方オペラ『はかなき人生』からの「間奏曲」及び「スパニッシュ・ダンス」とバレエ音楽『三角帽子』はエルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団の演奏で、アンセルメの民族主義的な曲想の輪郭を際立たせる手腕が冴え渡った秀演。

こちらもLP時代からの名盤で、いにしえのデッカ特有のマイク多用の効果がSACD化でますます発揮され、スコアが見えるほど各楽器が際立っているが、少しも人工的でなく、意外にアンセルメがエネルギーあふれる情熱的演奏をしていたことを証明している。

彼が舞踏場面の緊張感を高める時に、テンポを落としてかえって熱狂的なシーンの演出に成功しているのには驚かされる。

『三角帽子』はバレエ・リュスを率いていたディアギレフの委嘱作品で、指揮はアンセルメ自身が初演し、衣装デザインにはパブロ・ピカソが起用された意欲作だっただけに、初演時の意気込みが伝わってくるような情熱的な演奏だ。

ここでは若かったテレサ・ベルガンサの鮮烈な歌声も聴きどころだが、オーケストラにこれだけ幅広い表現力が引き出せるのかと思えるほど、多彩でスペクタクルな響きを楽しませてくれる。

後半の2曲はスペインの民族色を色濃く反映させた作品だが、その演奏に関してはスペインには名門オーケストラが育たなかったためか、その後ファリャがフランス系のオーケストラの独壇場のレパートリーになっていったのも皮肉な結果だ。

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2014年10月10日


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この2曲のこれだけ神々しい演奏は他に類例を見ない、まさに決定的名盤である。

この演奏にはいわゆる美しいモーツァルトの姿は微塵もなく、まるでモーツァルトの心の内面を抉り出すような、曝け出したしたかのような強い演奏である。

ハスキルはモーツァルト弾きとして通常は知的な演奏を得意としていたが、この録音は明らかに違う。

ハスキルのピアノは、緩徐楽章における人生の諦観とともに、特に、両端楽章にはどこか切羽詰まった気迫のようなものが感じられるのが実に興味深い。

こうした感情の露出が大きい個性の強い表現、芯の強い表現は、他にはギーゼキングとカラヤンが共演したモノラル盤以外に殆ど類例がない。

両曲とも最初の前奏から少々ビックリするような悲劇的表現で曲は開始されるが、ビアノが始まるとさらに内面深く落ち込んでゆく。

しかし聴き込んでいくとそこにモーツァルトの真の姿を見るような思いが湧き出てくるのである。

モーツァルトがハスキルに乗り移り,彼女の指を使って自作自演をしているようでもあり、特にハ短調協奏曲は突然ぶっきらぼうに終演して、悲劇の中に光明を見るような演奏になっている。

本演奏は、ハスキルの死の1か月前の録音であるが、モーツァルトの数少ない短調のピアノ協奏曲を2曲セットにしたカップリングにも、何か運命めいたものを感じさせる。

ハスキルは、自分が譜面から読み取った音楽を、完全に自分の方法で、淡々と、朴訥に、弾いているのだ。

そして、淡々と誠実に弾かれているパッセージのところどころから、ハスキルの決して幸福ではなかった人生から来る孤高の悲しみのようなものが伝わってくる。

情感の豊かさも相当なものがあるが、決して哀嘆調には陥らず、高踏的なピアニズムと気品を失っていない点も素晴らしい。

まさに、ハスキルの貴重な遺言とも言える至高・至純の境地に達した名演と高く評価したい。

マルケヴィチの指揮は、実に堂の入った巨匠風の指揮ぶりであり、当時の手兵であるコンセール・ラムルー管弦楽団を見事に統率して、最善のサポートを行っている。

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2013年07月30日


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1955年12月8日、パリでのライヴ録音。

ハスキルはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を好んで弾いたらしく、いくつかの録音が残っている。

彼女の解釈に剛健とか力強いとかいう形容詞はそぐわない。

彼女はそういう外面的な要素とは関係なく、彼女の心にベートーヴェンの音楽が喚起したイメージを現実のものにする。

したがって、その演奏は、精神の純粋さと豊かな自発性を、生き生きした感情で音楽に対する親近感を聴き手の心に喚起する。

ハスキルが好んだ指揮者の1人がクリュイタンスで、音楽に対する純粋な感受性に基づく演奏には清々しさがある。

ピアノとオーケストラの交替で進められる第2楽章は、その点で2人の心の対話とでも呼びたい演奏になっている。

ハスキルは偉大なモーツァルト解釈者で、豊かな自発性と謙虚な姿勢がモーツァルトの音楽をありのままの姿で再現させた。

彼女のこまやかな感情に裏づけられたタッチが、音楽を生き生きと再現する時、聴く人も無私の世界に遊ぶことができる。

このライヴ録音では、彼女の個性が強い臨場感を伴って感じられる。

長調の作品におけるのびやかな飛翔と違って、音楽の悲哀感やドラマティックな性格がこまやかな陰影を伴って示される。

彼女が共演を好んだクリュイタンスの指揮にも品位があり、ハスキルへの共感が演奏を支えている。

マルケヴィチと共演したスタジオ録音も優れた演奏だが、クリュイタンスとの共演も大変貴重である。

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2012年06月17日


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1955年6月15日 ストラスブール音楽祭でのモノラル(ライヴ)録音。

シューリヒトは、颯爽としたイン・テンポの下、繊細なニュアンスを随所にちりばめるという、言わば渋くて、枯淡の境地を垣間見せるような名演を繰り広げた指揮者だと思っていた。

しかし、それは、録音状態のいい名演が1960年代の晩年に集中していることによるものであり、1950年代半ばにフランスのオーケストラと繰り広げた前作の3枚のCDで、そのような印象が見事に覆ってしまった。

本CDも、同じく1950年代の演奏であるが、前作と同様に、テンポが目まぐるしく変遷する実に熱い演奏を行っている。

シューマンのピアノ協奏曲は、実に味わい深く、ハスキルもひとつひとつ音を慈しむように弾いていて、まるで、墨絵の世界のように渋い美しさである。

第1楽章のオーボエによるゆったりとした濃厚な表情にびっくりさせられる。

主部に入ると、演奏の歩みを速めることになるが、テンポは緩急自在で、ハスキルとの息もぴったりだ。

第2楽章は、冒頭と終結部の主題を速めに演奏して、中間部をむせ返るような抒情で歌いあげるという、実に効果的な至芸を披露している。

第3楽章も、シューリヒトの魔法のような棒のもと、見事な音のドラマを繰り広げており、演奏終了後の聴衆の熱狂も当然だと思われる。

ベートーヴェンの「第5」は、全体の印象は、晩年の颯爽たるイン・テンポのシューリヒトであるが、隋所に、この時期のシューリヒトならではの踏み外しが見られる。

第1楽章はシューリヒト独特の鋭いアクセントや陰影の付け方も見事だが、展開部や再現部での荒れ狂った様子はフルトヴェングラーの1947年盤を想起させる。

シューリヒトは、この「第5」のような奇数番号を比較的淡白に指揮するものだと思われているが、これを聴けば全くそうではないことがわかる。

例えば、第3楽章の終結部の第4楽章に向けての弦の動きなど、演奏が止まってしまうかと思うようなテンポダウンを見せたり、終楽章は、冒頭主題をゆったりとしたテンポで高らかに歌い上げたかと思うと、突然、テンポが超快速に変遷する。

終結部の一歩手前は、凄まじいアッチェランドをかけており、シューリヒトの熱いパッションの爆発が見られる。

「オイリアンテ」序曲も含め、本CDにおさめられたいずれの曲も、これまでのシューリヒトの印象を覆すのに十分な超名演と評価したい。

ライナーの平林氏の解説も、過去の演奏との比較など実に懇切丁寧であり、いい加減なライナーがはびこる中で、平林氏には深く敬意を表したい。

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2009年03月08日


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いくぶん録音は古くなったが、モーツァルトを弾かせたら当代随一とまでいわれたハスキルの名演である。

モーツァルトの演奏家は数多いが、ハスキルは最高位に置かれよう。

彼女の天衣無縫のような、少しも技術や訓練を意識させない演奏は、自然な流れの中に豊かな感情の起伏を反映させている点で、独特の魅力をもっていた。

特に変ホ長調協奏曲K271《ジュノーム》は、ハスキルがしばしば取り上げた作品である。

ここで彼女のフォルテピアノに匹敵する軽やかで明快なタッチは、旋律から簡素で純粋な美しさを引き出している。

イ長調協奏曲でもハスキルの解釈は本質的には変わらないが、後期の作品のスケールの大きさに見事な対応を示している。

また、陰影に富んだこの曲の美しさを十分に再現していて素晴らしい。

ことに、暗くロマンティックな情緒にあふれた第2楽章は絶品である。

ここで彼女が示した豊かなエネルギーと生命力もまた、モーツァルトの音楽と本質的に対応する。

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2009年01月10日


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"モーツァルト弾き"の女流演奏家のトップともいえるハスキルが、亡くなるわずか1ヵ月前に録音した不滅の名盤である。

高雅な詩情と玲瓏な音色をもったハスキルのピアノと、きわめて激しく劇的なマルケヴィチの棒が生み出した、白熱的な名演である。

両者の音楽性はそれぞれ異なっているものの、お互いが十分に理解しあって演奏しているだけに、両者は不思議とよく溶け合っており、寸分の隙もない表現となっている。

ニ短調でのハスキルは、彼女としては比較的表情を大きくつけて弾いている。

カンタービレの優しく温かい味とか緩急の間の美しさとかは彼女ならでは。

高い気品と豊かな"歌"をあわせもちながら、この作品全体にただよう哀感を、これほどまでに纏綿と表出した演奏というのも珍しい。

ハスキル最晩年の孤高の境地といったものが感じられる演奏だ。

ハ短調は他のピアニストのように劇的に構成していないが、ピアノをよく歌わせ、高雅な憂いの情を匂わせながら、すっきりとまとめていく手並みが絶妙である。

ハスキルの彫りの深い表現は感動的だし、また、第1楽章のオーケストラの提示部からして、マルケヴィチの棒は情熱的で、全体にただよう暗鬱な気分を見事に表現している。

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2008年02月08日


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いかなるところでも、例えば熱っぽいところでも躍動的なところでも、あくまでも洗練を失わない名演である。

音質もまことに澄んでいる。

しかも、ただ表面的に美しいというだけでなく、作品に即したエスプリも展開する。

しかも、中間楽章では耽美的ともいえるくらいにたっぷりと表情をつけている。

こうした演奏はおそらくハスキル主導型のためだろうが、グリュミオーもよく合わせている。

2人の音楽的呼吸が見事に合い、そこから生まれた音楽は、きわめてなめらかである。

ハスキルのピアノは、端正で、土台がしっかりしていて、柔らかい響きであり、グリュミオーのヴァイオリンは、豊麗で実によく歌わせている。

そこからは、古典的な格式もロマンも漂っている。

そこには哀愁もあれば、軽快さもあり、愛らしささえ感じる。

暖かいモーツァルトで、聴く人の心をなごませる名演奏だ。

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