ドラティ

2017年07月18日


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マーキュリー・レーベルが誇った高音質録音のリイシュー・バジェット・シリーズも第3巻目になり、今回もCD53枚の大挙放出だが、さすがに玉石混交でいくらか際物的な曲目や演奏が連綿と続いている印象は否めない。

前半はマーキュリーの申し子のようなアンタル・ドラティ指揮、ミネアポリス交響楽団がこれでもかと続き、フレデリック・フェネルのセミ・クラシックや軽音楽も満載されている。

しかし相変わらず音質に関しては時代を超越した鮮烈さと臨場感があり、演奏も多少時代の趣味を反映しているとは言え決してがっかりさせないだけの立派な内容を揃えている。

どの1枚を聴いても当時のマーキュリー独自のポリシーや録音チーム、エンジニア達の息吹きが伝わって来ない録音はない。

演奏曲目で見れば今回は入門者向きではないかも知れないが、言ってみればアメリカがオーディオに最も贅を尽くした時代の遺産として音響マニアには充分に意義のある貴重なコレクションだろう。

皮肉にも彼らの録音方法はシンプルを極めていて、マーキュリーの専売特許的な3本吊りマイクロフォンと3トラック・テープがその秘訣になっていることに変わりない。

人間の聴覚に最も効果的に捉えられるために編み出された手法と、半世紀も前のミキシング技術によるリヴィング・プレゼンスの音源が、現代の下手な録音を凌駕するだけの音響を誇っているのは紛れもない事実だ。

オールド・ファンに興味深いものに初CD化された12枚がある。

CD15はフェネルがヴィクター・ハーバードの小品集を振ったもので1960年のステレオ録音。CD38−40はドラティ、ミネアポリスのコンビによるヒネステーラ、ブリテン、コープランド、レスピーギ作品集で1954年のモノラル録音になり、CD43も彼らの演奏によるベートーヴェンの『英雄』だがこれは1957年のステレオ録音だ。

CD48はロメロ親子のギター四重奏団による1966年のフラメンコ集、CD49はネヴィル・マリナー、ザ・ロンドン・ストリングスがヴィヴァルディ、ヘンデル、テレマンを演奏した1965年のバロック音楽集、CD50がフェネル、イーストマン・ウィンド・アンサンブルによる1957年のヒンデミット、シェーンベルク、ストラヴィンスキーなどの20世紀の吹奏楽集。

CD52及び53はボーナス盤で、前者が再びドラティ、ミネアポリスの1954年のモノ録音でチャイコフスキーの『序曲1812年』と『イタリア奇想曲』、後者はボロディン四重奏団が1962年に録音したショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第4番ニ長調及び第8番ハ短調ということになる。

またLPとしてもこれまでにリリースされなかった音源がCD26のトラック13、グリンカの『ホタ・アラゴネサ』で、チャールズ・マッケラス指揮、ロンドン交響楽団の演奏だ。

尚リリース間際まで未定になっていたCD24及び25にはハワード・ハンソン作曲『メリー・マウント組曲』『モザイク』『フォア・ザ・ファースト・タイム』の3曲を作曲者自身の解説と指揮、イーストマン=ロチェスター管弦楽団とイーストマン・フィルハーモニアの演奏で収録している。

これらの曲目自体は第1巻のCD8に収録済みだが、パート別に分解して彼のオーケストレーションのテクニックとその音響効果を聴かせる方法は、さしづめアメリカ版『青少年のための管弦楽入門』と言ったところだ。

その鮮明な音質、楽器の定位、分離状態の良さには実際舌を巻く。

CD27にはポール・パレー指揮、デトロイト交響楽団によるベルリオーズの『幻想交響曲』その他が組み込まれたが、これらは過去にもCD化されているし、第1巻のCD15と同一音源だ。

このセットで大活躍しているオーケストラにミネアポリスとデトロイトのふたつの交響楽団が挙げられる。

いずれもアメリカを代表するオーケストラで現在でも彼らは高い評価を受けている。

ミネアポリスは後にミネソタ交響楽団と改名しているが、首席指揮者はドラティの前にオーマンディとミトロプーロスが、そして彼の後にスクロヴァチェフスキーやネヴィル・マリナーが就任している。

彼らの演奏を聴いていると、その余りにも屈託のないサウンドに驚かされるが、それは当時のアメリカのオーケストラを象徴しているのかも知れない。

一方ミシガン州デトロイト市は最近市役所から破綻申請が出されたにも拘らず、楽団の方は健在らしくネーメ・ヤルヴィの後を継いだ音楽監督はレナード・スラットキンのようだ。

デトロイト交響楽団はポール・パレー時代に黄金期を迎えアメリカでも有数のオーケストラに成長し、マーキュリーには名演として評価されている録音も少なからずあるが、今回もCD9枚が彼らの演奏に当てられている。

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2017年07月16日


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第1巻では選曲に漏れていたマーキュリー・リヴィング・プレゼンスが誇る名録音コレクションが、再びボックス・セットにピックアップされてユニヴァーサルから大挙復活した。

過去にLPレコードとしてリリースされたタイトルは350にもなリ、前回は51枚の編集だったが1年足らずで早くもプレミアム付で売られているので、半世紀ほども前のこのシリーズが現在でも如何に根強い人気を持っているかを証明している。

それはまた当時のマーキュリーのスタッフ達が究極の音の再現に挑んだオーディオ黎明期の目覚しい記録でもある。

今回は第1巻のセットに組み込まれなかった曲を55枚のCDにまとめてある。

おそらく前回の売り上げに気を良くして柳の下のドジョウを狙ったものと思われるが、箱物としてはかなりリーズナブルな価格であるため、最良のオーディオ史体験のサンプルとしてクラシック・ファンだけでなく、オーディオそのものに興味のある方や入門者にもお薦めしたい。

マーキュリーの看板指揮者だったアンタル・ドラティはこのセットでも最多数のCDをカバーしているが、注目されるのは一連のポール・パレー指揮、デトロイト交響楽団によるフランス、スペインものを中心とした8枚が軒並み復活している。

また純粋なクラシックの他に、フレデリック・フェネル、イーストマンのコンビによるスーザやその他の作曲家のスタンダード・マーチ集や、ルロイ・アンダーソンの作品を始めとする軽音楽のジャンルのレパートリーも充実させている。

ボーナスCDは最後の2枚で、1953年に録音されたドラティ指揮、ミネアポリス交響楽団の『春の祭典』及び初のCD化になる1969年のコリリアーノのピアノ協奏曲とリヒャルト・シュトラウスの『左手のための協奏曲』だが、ここにはワシントン・ポスト紙のポール・ヒューム氏からのピアニスト、ヒルデ・ゾマーやジョン・コリリアーノ自身へのインタビューも収録されている。

これから購入を考えている方のみならず、モノラル盤に関して懐疑的な方にも1度試聴してみることをお薦めする。

マーキュリーがステレオ録音を採り入れたのは1956年からなので、それ以前は当然モノラルのセッションになるが、それらは彼らの専売特許的な無指向性一本吊りのモノ・マイクのみで採音したもので、当時一般的に使用されていたその他の補助的な録音機器は一切退けている。

その頑固なまでにシンプルな方法にマーキュリーのポリシーと秘伝のテクニックがあるわけだが、通常モノラルでは分離しにくい楽器ごとの独立性も保たれ、低音から高音までの音質や音像の鮮明さだけでなく、空間の広がりやバランスも絶妙だ。

今回は特にモノラル盤も多数選出されていて、クーベリック、シカゴ響のヒンデミットの『ウェーバーの主題による交響的変容』、シェーンベルクの『5つの管弦楽曲』やモーツァルトの『プラハ』、ドヴォルザークの『新世界』、そしてドラティ、ミネアポリス響によるストラヴィンスキーの『春の祭典』、更にフェネル、イーストマン・ウィンド・アンサンブルのホルストの2つの『ミリタリー・バンドのための組曲』などがそれぞれモノラルながら、決してリスナーを裏切らない名盤だ。

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2017年02月24日


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筆者の実家には両親が買い集めたマーキュリー・リヴィング・プレゼンスのLP盤が少なからずある。

それらの中には当時から入手困難だったものも多く、また、気安くコレクションできるような価格でもなかった。

しかし再生した時の音質の良さは、部屋があたかもコンサート・ホールに変わったかのような、劇的なものだったことを今でも良く覚えている。

そしてその後のあらゆる録音に対する筆者の音質評価はリヴィング・プレゼンスが基準になっていると言っても過言ではないだろう。

それは音の鮮明さ、臨場感、そして自然な音響空間などで、オーディオ機器を買い揃える時の目安としても、試聴サンプルとして聴いていたのがこれらだった。

勿論演奏そのものも名演の名に恥じないセッションがきら星の如くあり、その後CDになってから買い換えたものもあって、今回の廉価盤化による大挙放出には複雑な思いだったが、未購入のものも多く、また廃盤の憂き目に遭っているCDもあって結局買ってしまった。

過去にレコーディングされたタイトルは350にも上るが、CD化に伴って曲目は適宜リカップリングされているようだ。

内容は1950〜60年代に制作された米マーキュリー・レーベルのクラシック録音から、代表的な作品をCD50枚に収容。

このシリーズは全部で250種ほどになるが、その3分の1弱がこのボックスに入っていることになる(アナログLPとCDの容量差を活かし、多くの盤で関連作品の楽曲が追加されているため)。

ただし今回の50枚のセットからは除外されている録音も多数あるので、購入されたい方は希望する曲目が含まれているかどうか確認する必要がある。

ちなみに楽曲の構成では近代曲が主体であり、特にソ連やハンガリーなど「旧東側陣営」の作家作品を多く収めているところに特徴がある。

これはマーキュリーレーベルの個性でもあり、RCAやコロムビアがロマン派楽曲を重視したことと好対照だ。

1951年から始まった無指向性1本吊りのモノ・マイクロフォンでスタートしたリヴィング・プレゼンスの録音は、やがて1959年には3本吊りのマイクによる採音と35mm映画用音声テープを使った3トラック・レコーダーへの録音という、決定的な手法を編み出した。

半世紀も前の稚拙な機材とミキシング技術と言ってしまえばそれまでだが、この方法によって現在の録音技術にも匹敵し、ある意味ではそれを凌駕するほどの音質が得られている事も多くの人が指摘している事実だ。

このマーキュリー流儀の録音はシンプルだが空間の再現性に優れ、しかも音に強靭な厚みがある。

これは優秀なマイク(ノイマンU47に代表される管球式コンデンサーマイク)と贅沢な録音機材、そして記録メディアの余裕がなせる技であり、より後年の録音に比べて記録幅のマージン(=ダイナミックレンジ)はむしろ広く取れている。

もちろんテープヒスなどのノイズは多めで、弱音部ではかなり目立つのだが、それよりも強奏部の立ち上がりと歪みの無さが圧倒的。

あのドラティの《火の鳥》から「カスチェイの凶暴な踊り」の冒頭で、打楽器の一撃と金管がサウンドステージを振るわせる部分などは、明らかに実演を超える凄まじさがあり、こういう誇張した表現に説得力を与える巧みさは、現代のハリウッド映画にも通じるものだろう。

彼らのレコーディングは1967年で事実上終了したが、プロデューサーを始め、この仕事に携わったエンジニア達の音に賭けたこだわりと、熱い意気込みがこれらのCDを通じて再び蘇ってくるようだ。

ライナー・ノーツは64ページで、録音時のエピソードと演奏者紹介が写真入りで掲載されている。

ボーナスCDには当時のプロデューサー故ウィルマ・コザート・ファイン女史へのインタビューが収められている。

単に録音が優れたクラシック作品なら、洋の古今で枚挙に暇(いとま)が無いが、マーキュリーの諸作には音楽と録音芸術が見事に一体化した「筋の通った価値」があり、それを創り出していたのが、女性ディレクターとして辣腕を振るったコザートである。

コザートは1953年にマーキュリーの副社長に迎えられ、以後10年にわたってエンジニアのロバート・ファイン(後に彼女の夫となる)らとともにレコードの制作にあたった。

実はこのボックスに収められた50枚は、1990年代にデジタル化された音源を使っている(2000年代のSACD化に使われたDSDマスターとは別音源)。

そのデジタル化に際しては、わざわざ録音当時の機材をレストアして送り出し側に使い、さらにコザート本人を招いて3ch→2chのダウンミックスを行うという念の入れよう。

その作業は必ずしも完璧なものではなかった(ごく一部でレベル調整の瑕疵がある)にせよ、ディレクターの意図を尊重する姿勢を評価すべきだろう。

コザートは2009年にこの世を去り、当時の関係者も残り少なくなってきたが、ここに収められた音楽が色褪せることは無いだろう。

クラシック音楽とオーディオ再生を愛する者にとって、これは必携といえる素晴らしいボックスである。

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2017年01月30日


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バレエ音楽に非凡な才能をみせてきた巨匠ドラティの優れた演奏で、彼のこの作品に対する自信のほどがはっきりと示された名演である。

この巨匠の3度目の全曲盤(1975年)であり、天下の銘器コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮したこの録音は、ドラティの数多いアルバムの中でも屈指の名盤で、彼は過去の実績から言っても不思議とこのオーケストラとウマが合う。

ドラティは、ブダペストのフランツ・リスト音楽院でバルトークやコダーイに作曲を学び、1933年にモンテ・カルロを本拠とするロシア・バレエ団(バレエ・ルッス)の指揮者となり、1941年からアメリカのバレエ史上の大きな足跡を残したバレエ・シアターの創設に音楽監督として参加した。

そうしたドラティにとってチャイコフスキーのバレエ音楽は自家薬籠中の作品と言って良く、コンセルトヘボウ管弦楽団を意のままに動かしながら、丁寧に仕上げている。

まさに自他ともに認めるバレエのスペシャリストであったドラティがその円熟期に残したこの演奏は、細部まで的確に構成された明快でシンフォニックな表現とバレエとしてのドラマをバランス良く合わせそなえている。

ドラティはこのバレエ音楽のメルヘンチックな性格をあますところなく生かしながら、構成的な美しさを尊んだ演奏で、いかにもヴェテランらしい、貫禄十分の名演を展開している。

全曲を通じて、各場面の変化に富んだ描き方も秀逸で、まさに"バレエの神様"ドラティの面目躍如たる会心の演奏。

永年に渡ってあらゆるバレエ音楽を手がけてきたドラティだけあって、その棒が冴え渡り、細部に至るまで神経が行き届いた実に鮮やかな演奏で、リズム処理のうまさはこの指揮者独特のもの。

ヴェテランならではの巧みな表現をきびきびとしたリズムで運んでおり、コンセルトヘボウ管弦楽団がそうした演奏に美しい色彩を添えているのも魅力である。

ドラティは同曲のスコアを極めて綿密に読みつくしていることを思わせ、そのオーケストレーションがもたらす音色的な推移やリズムの変化などを鮮明に描き出しながら、このバレエ音楽の踊りと情景とを見事な構成感のもとに表出している。

彼は、確信にみちた運びの中に力感あふれる表現をしなやかに行き渡らせ、70歳を越えた指揮者のものとは思えないほどの力感と情熱にあふれ、風格あふれる運びと精緻な表現で、音楽の細部を実に的確にバランスよく描きながらも急所はピタリと押さえ、全編が精密に構成されている。

この柔軟で確かなバランスゆえに、聴き手は音楽の大きな流れと新鮮な生命感をたたえた演奏の中にも、細部の魅力を無理なく味わえる。

細部まで実に的確な切れ味の良い表現が生き生きとしなやかに織りなされており、その精緻な美しさと全曲を見通した構成の良さは、数あるこのバレエ音楽の演奏の中でも群を抜いている。

しかも、作品を知りつくした巨匠は、各曲をいかにもバランスよく鮮明に描き分けて、見事なドラマをつくってゆく。

ドラティの指揮は設計が綿密で、しかも演出と表情づけが実にうまく、夢幻的な舞台の雰囲気が手にとるようによくわかるが、こうした表現は実際の舞台の経験が豊富なこの人ならではのもので、コンセルトヘボウ管弦楽団の鋭敏でしなやかに強い集中力をもった反応も素晴らしい。

豊麗なオーケストラの音色も、このグランド・バレエにふさわしく、メロディー・メーカー、チャイコフスキーの旋律美を存分に堪能することができる。

バレエ音楽のスペシャリスト、ドラティという指揮者の並々ならぬ底力のほどを、改めて思い知らされるような演奏であり、彼の透徹した解釈が年輪を加えることによって、いっそう見事な香気を放った名演と言うべきだろう。

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2015年03月18日


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畏れ多くも史上初のハイドン交響曲全集であるが、まずは、この偉業に頭を垂れなければならない。

全104曲、輸入盤CDにして33枚(国内盤は36枚で売られていた)の大プロジェクトである。

初出のLP時代には、なんと46枚の大全集であり、ベームのモーツァルト交響曲全集LP15枚(現行CD10枚)を大きく凌駕する。

この企画を通した英デッカとしても、ショルティによるワーグナー「ニーベルングの指環」以来の大英断だったに違いない。

1969年から72年にかけての録音と言うと、カラヤンやベームの壮年期であり、クラシック・レコードに最も活気のあった頃である。

機械化が進んだため、質的には手作りの1950年代から60年代初頭より劣っていたにせよ、こうした大きな企画が通るには絶好のタイミングだったのかも知れない。

アナログ・レコードの制作は、録音からプレスまで、CDよりも数倍、数十倍のコストがかかるため、セールスの目処の立たない企画は成り立ちにくかったからである。

その意味でも、ドラティのハイドン交響曲全集は意義のある企画だった。

個別の曲で言えば、より優れたものもあるが、この全集のおかげで発見できたことがとても多いのだ。

演奏には中庸の魅力があり、小編成のフィルハーモニア・フンガリカによる溌剌とした演奏が小気味良い。

フィルハーモニア・フンガリカは1956年のハンガリア動乱によって移住した音楽家を集めて1957年に結成されたとのことであるが、その演奏水準の高さはトップランクだ。

ハンガリアン・ファミリーの1人、ドラティとの相性は言うまでもなく抜群で、室内楽的なアンサンブル、透明度の高い音色はハイドンにとても良くマッチしている。

フレージングはいつも新鮮、リズムも躍動しており、史上初の全集としての役割は十二分に果たしている。

ドラティの演奏の精巧さはライナーやセルらに共通するもので、このグループの指揮者の実力には改めて驚かされる。

余分なものも足りないものもない、古典的格調に満ちた演奏で、エディションはランドン版。

古楽器演奏とは一味違う表情の豊かさが魅力で、神経質なところがないので、ハイドンの交響曲の持つ伸びやかさを満喫することができる。

このハイドン全集は、英デッカがハンガリーとの関係が深かったがゆえに実現した企画とのことだが、移住者にとっては経済的にも干天の慈雨であったかも知れない。

強いて欠点を挙げるなら、あまりにも短時間で全曲を録音した結果、「一丁上がり!」的な粗雑な演奏も混在していることである。

普通なら録り直すであろうピッチやアンサンブルの乱れにも無頓着なところがある。

箱や袋からわざわざ盤を取り出すLPと違って、扱いのお手軽なCD時代になり、これまで滅多に聴かなかった初期や中期の作品を耳にするようになって、そうした粗が余計に目立って聴こえるようになったのかも知れない。

とはいえ、かつて国内盤CDで6万円以上していた当セットも、いまは半額くらいで手に入るので、手元に置いて、後悔することはなかろう。

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2012年07月08日


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1984年5月30日 ベルリン・フィルハーモニーに於けるライヴ/ステレオ録音。

ドラティのマーラーとは意外な組み合わせと思ったが、このディスクを購入した時期は筆者がマーラーに取り憑かれたかのごとく、ひたすらマーラーを聴き入っていた時期であり、聴き終えて大変驚いた。

これは超弩級の名演であり、このような名演がこれまで眠っていたことが信じられなかった。

1984年のライヴとのことであるが、次の年にライヴ録音を遺したバーンスタインの名演とは性格が全く異なる。

バーンスタインが人間のドラマとすれば、ドラティのは音のドラマということになろうか。

第1楽章は、ゆったりとしたイン・テンポの下、剛毅にして重量感溢れる音のドラマ。

第2楽章はまぎれもなく本名演の白眉で、他に類例を見ないほどの遅めのイン・テンポであるが、マーラーならではの舞曲を軽快にではなく、あたかも巨象の進軍のように演奏することにより、死を間近に控えたマーラーの狂気がダイレクトに伝わってくる。

第3楽章もテンポは遅く、かのジュリーニ盤に匹敵する遅さであるが、ジュリーニの柔和さとは異なり、剛直そのもの。

終結部も、バーンスタインが行ったアッチェレランドなど、薬にしたくもない。

終楽章は、実にコクのある重厚な表現で、ここに至って緩急自在のテンポ設定やアッチェレランドなどが現れるが、その卓越した表現力には評価する言葉が思いつかないほどだ。

演奏終了後の聴衆の熱狂もむべなるかなと思わせる。

録音も生々しささえ感じるほどの優秀さであり、本名演を心ゆくまで堪能できる。

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2010年09月13日


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ハンガリー生まれのドラティはバルトークを大変得意としており、ドラティが尊敬してやまなかったバルトークに対する熱い思いのこめられた名演である。

この演奏には、高齢に達したドラティとは思えぬ、若々しく熱のこもった指揮ぶりで、寸分の隙もない組み立ても素晴らしい。

全体にハンガリーの血のたぎりが感じられる民族色の濃い表現で、熱っぽい音のつくりかたやエネルギッシュなもりあげかたなど、この人ならではの訴えかける力の強い演奏だ。

デトロイト響の水際立ったうまさも見事の一言につきる。

単にドラティが、ハンガリーの出身でバレエ音楽を得意を得意としていたという皮相な見地からだけでなく、「中国の不思議な役人」は素晴らしい。

ドラティはこの曲を3回録音しているが、これは、その最後の録音。

ドラティの表現は、精妙、かつダイナミックなもので、この曲のもつ魅力を万全に伝えていて素晴らしい。

ここではそのユニークな語法の中に、ステージに対する洞察力、音色に対する配慮が十分に行き届き、この非常なドラマをメカニカルなだけの世界にとどめていない。

原曲通りのコーラス入りの演奏。

「弦、チェレ」も屈指の名演で、一点一画をもおろそかにせず、各楽章を入念に練り上げながら、全体を精妙に仕上げている。

緊張感にあふれた大変精度の高い演奏であり、特に第2,4楽章が見事だ。

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2010年05月29日


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ハイドンの交響曲全集はこれが初めてで、ドラティの代表的業績に数えられる素晴らしい名演だ。

1969年から72年の短期間にこの偉業を達成したのは驚くべきことである。

古楽演奏のスペシャリストたちが次々とハイドンの交響曲を録音しているが、レコード史上初の画期的な大企画として、またドラティ畢生の仕事として、この全集は忘れることはできないだろう。

ピリオド・アプローチが幅を利かせつつある今日のハイドンの演奏様式と比べると隔世の感があるのは否めないものの、交響曲の分野におけるハイドンの作風の変遷を的確に描き分けたドラティの手腕は高く評価すべきであり、実際の音でハイドンの交響曲の世界を概観できるようになった意義はきわめて大きかった。

ほとんど顧みられないオペラにも取り組むなど、ハイドンに傾倒していたドラティの演奏は、作品への愛着と自信を示すとともに客観性を失うことなく、ひき締まった表現の中にハイドンならではの機知とユーモア、また大らかな楽しみを格調高く表現している。

これほどムラなく、優れた客観性をもって演奏された全集は、今後も長く望めないだろう。

個々の曲にはよりすぐれた個性的な演奏もあるが、ムラのない演奏はいかにも全集にふさわしいし、R・ランドンの校訂譜による演奏である点も信頼される。

無用な誇張や思い入れを厳しく排し、ハイドンの古典的な楽想を明快に表現しきった老匠ならではの偉業といえるだろう。

フィルハーモニア・フンガリカはハンガリーからの亡命者によってドイツのマールで結成されたユニークな団体。

この大部のアルバムは2001年に解散を余儀なくされたこのオーケストラの最大、かつ最良の遺産である。

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2010年04月17日


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組み合わせと録音のすこぶるよいディスクである。

いずれも、ドラティのバレエ音楽に対する自信のほどがはっきりと示された名演で、バレエ音楽に非凡な才能をみせてきた巨匠ドラティの優れた演奏。

ドラティは、ブダペストのフランツ・リスト音楽院でバルトークやコダーイに作曲を学び、1933年にモンテ・カルロを本拠とするロシア・バレエ団(バレエ・ルッス)の指揮者となり、1941年からアメリカのバレエ史上の大きな足跡を残したバレエ・シアターの創設に音楽監督として参加した。

そうしたドラティにとってストラヴィンスキーのバレエ音楽は自家薬籠中の作品といってよいだろう。

ドラティはデトロイト響を意のままに動かしながら、丁寧に仕上げている。

永年に渡ってあらゆるバレエ音楽を手がけてきたドラティだけあって、その棒が冴える。

細部に至るまで神経が行き届いた実に鮮やかな演奏で、リズム処理のうまさはこの指揮者独特のもの。

ドラティは大編成のスコアを極めて綿密に読みつくしていることを思わせ、そのオーケストレーションがもたらす音色的な推移やリズムの変化などを鮮明に描き出しながら、これらのバレエ音楽の踊りと情景とを見事な構成感のもとに表出している。

《春の祭典》は、70歳を越えた指揮者のものとは思えないほどの力感と情熱にあふれ、しかも急所はピタリと抑え、全編が精密に構成されている。

ドラティは、確信にみちた運びの中に力感あふれる表現をしなやかに行き渡らせ、デトロイト響の反応も優れている。

ことに、第1部の「賢人の行列」や、第2部の「祖先の呼び出し」などの巧みなまとめかたは秀逸である。

《ペトルーシュカ》では、第3場の人形たちのデリケートな動きや、最後の場面での不気味な雰囲気にあふれた表現など、心憎いほどの腕の冴えを見せる。

《火の鳥》は初演版による演奏である。

このドラティの晩年にデトロイト響を指揮して録音された《火の鳥》は、表現の巧緻な点で、3大バレエの中でも最もすぐれているといってよいのではないだろうか。

録音当時76歳のドラティは、風格あふれる運びと精緻な表現で、音楽の細部を実に的確にバランスよく描く。

この柔軟で確かなバランスゆえに、聴き手は音楽の大きな流れと新鮮な生命感をたたえた演奏の中にも、細部の魅力を無理なく味わえる。

細部まで実に的確な切れ味の良い表現が生き生きとしなやかに織りなされており、その精緻な美しさと全曲を見通した構成の良さは、数あるこのバレエ音楽の演奏の中でも群を抜いている。

しかも、作品を知りつくした巨匠は、各曲をいかにもバランスよく鮮明に描き分けて、見事なドラマをつくってゆく。

オーケストラ・トレーナーとしても類まれな手腕をもっていたドラティに鍛えられたデトロイト響の鋭敏な反応を示し、しなやかに強い集中力をもった反応も素晴らしい。

バレエ音楽のスペシャリスト、ドラティの透徹した解釈が年輪を加えることによって、いっそう見事な香気を放った名演というべきだろう。

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2010年03月21日


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ハンガリー出身のドラティは、民族色の濃い作品の演奏を大変得意としていた。

そうした彼の指揮したこの《スラヴ舞曲集》は、力強く活気に溢れた曲と抒情的な美しさに満ちた曲との対比が見事で、大変聴き応えがある。

ドラティはこの曲の千変万化する曲想の特性をよくつかみ、実にうまく処理しており、民族的な情感と逞しさが見事に調和している。

ドラティは、決してスター的な存在ではなかったが、玄人好みのする名匠であり、聴き込むほどに味わいが深まる得難い名演によってファンの根強い支持を得ていた。

そして、この《スラヴ舞曲集》は、オーケストラの巧みなコントロールと表現の美学のグレードの高さといった観点から、この指揮者の持ち味が十二分に発揮された演奏になっている。

ドラティは、ロイヤル・フィルから持てる可能性をフルに引き出し、強靭で密度の高いアンサンブルを実現させているが、そこで表現されているひとつひとつのスラヴ舞曲は、それぞれの舞曲としての特徴が鮮やかに把握されているだけでなく、瑞々しい生命感情や生き生きとしたエネルギーに溢れる鮮烈なアピールを放っている。

ドラティのアプローチは、作品独特の土俗性を尊重しながら、そこに秘められた高度で普遍的な芸術性をも浮き彫りにすることに成功を収めており、恐るべき読みの深さを印象づけているのである。

この曲には名盤が多いが、民族的な情感豊かなこのドラティの演奏も、特に優れたもののひとつに数えてよいだろう。

なお、このディスクに一緒に収められている《アメリカ組曲》は、滅多に聴くことのできない作品だけに、なかなか考えられた選曲だ。

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2009年01月31日


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30代のほぼ10年間をモンテ・カルロのロシア・バレエ団の指揮者として過ごすなど、自他ともに認めるバレエのスペシャリストであったドラティがその円熟期に残したこの演奏は、細部まで的確に構成された明快でシンフォニックな表現とバレエとしてのドラマをバランス良く合わせそなえている。

入り組んだリズム処理に、抜群の手腕を発揮するドラティならではの、あざやかな指揮ぶりに驚嘆させられる全曲盤である。

ドラティはいかにもヴェテランらしい、貫禄十分の名演を展開している。

この曲の交響的な性格をあますところなく生かしながら、構成的な美しさを尊んだ演奏だ。

ドラティの指揮は設計が綿密で、しかも演出と表情づけが実にうまく、「ワルツ」「バラのアダージョ」「パノラマ」などを聴くと、あの夢幻的な舞台の雰囲気が手にとるようによくわかる。

こうした表現は実際の舞台の経験が豊富なこの人ならではのもの。

豊麗なオーケストラの音色も、このグランド・バレエにふさわしく、メロディー・メーカー、チャイコフスキーの旋律美を存分に堪能することができる。

全曲を通じて、各場面の変化に富んだ描き方も秀逸で、まさに"バレエの神様"ドラティの面目躍如たる会心の演奏。

ドラティという指揮者の並々ならぬ底力のほどを、あらためて思い知らされるような演奏といえよう。

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2008年04月22日


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ブダペストのフランツ・リスト音楽院でコダーイやバルトークに師事したドラティは、さすがに恩師の作品の演奏に対する理解力はたいへんなもので、天下の銘器コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮したこの録音は、ドラティの数多いアルバムの中でも屈指の名盤といって良い。

彼は過去の実績からいっても不思議とこのオーケストラとウマが合う。

マジャール的な味を全篇に色濃く出し、異常なまでに密度の高い演奏を繰り広げる。

細部までよく考えられており、各部分の描き分けの適切さに舌を巻く。

素晴らしい立体感だ。

特に第3楽章から第4楽章にかけての盛り上げ方にうまさには圧倒される。

息を呑むような演奏とはまさにこのことで、独奏者たちの腕も冴えわたっている。

ハンガリー的情感を見事に表出している点も、他の名盤にはない味わいだ。

もっと派手な音や、直截的な迫力を楽しみたければ、ベルリン・フィルやシカゴ響などのものを聴けばいい。

そうした演奏から聞こえない音楽を聴きたいのなら、ドラティのCDに第一に指を屈する。

苦みのうまさがわかる、微妙な味の違いのわかる大人のための音楽だ。

その他の曲も屈指の名演で、ハンガリー人としての血のたぎりさえ感じさせる。

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