ヴェンツ
2020年01月17日
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2014年はC.Ph.E.バッハの生誕300周年に当たり、彼にちなんだコンサートの開催や作品集のリリースも盛んに行われた。
オランダのブリリアント・レーベルからはCD30枚のエディションも刊行されたが、このフルート・ソロと通奏低音のためのソナタ全曲集も同エディションに組み込まれた2枚をピックアップしたもので、2012年及び翌13年に収録されたヴェンツとしては久々のCDになる。
彼の若い頃の演奏はロカテッリのソナタ集に代表されるような、名技主義を前面に出したおよそ古楽とは思えないような疾走するテンポが特徴で、クイケン門下の異端児的な存在だったが、ここ数年超絶技巧は残しながらも様式に則ったよりスタイリッシュな演奏をするようになったと思う。
この曲集も流石に大バッハの次男の作品だけあって、豊かな音楽性の中にかなり高度な演奏上のテクニックが要求される。
ヴェンツを強力に支えているのがチェンバロのミハエル・ボルフステーデで、ムジカ・アド・レーヌムの長い間のパートナーとして絶妙なサポートをしている。
2枚目後半での彼のフォルテピアノのダイナミズムも聴きどころのひとつだ。
今回ヴェンツの使用したトラヴェルソは最後の3曲がタッシ・モデル、それ以外はノーストの4ジョイント・モデルで、どちらもシモン・ポラックの手になるコピーだ。
ピッチはa'=400Hzの低いヴェルサイユ・ピッチを採用している。
これはそれぞれの宮廷や地方によって統一されていなかった当時の、ベルリン宮廷で好まれたピッチで、ムジカ・アド・レーヌムもこの習慣を踏襲している。
またボルフステーデは2枚目のWq131、133及び134の3曲には漸進的クレッシェンドが可能なフォルテピアノを使って、来るべき新しい表現を予感させているが、この試みは既にヒュンテラーの同曲集でも効果を上げている。
尚このソナタ集には無伴奏ソナタイ短調が入っていない。
ヴェンツは大バッハの無伴奏フルート・パルティータは既に録音済みだが、この曲もやはり非常に高い音楽性を要求されるレパートリーだけに将来に期待したい。
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハは、27年間に亘ってプロイセンのフリードリッヒ大王の宮廷チェンバリストとして奉職したために、大王のフルート教師クヴァンツや大王自身の演奏に常に参加して彼らの影響を少なからず受ける立場にあった。
しかし作曲家としては彼の革新的な試みが不当に評価されていて、俸給はクヴァンツの年2000タラーに対して若かったとは言え彼は300タラーに甘んじなければならなかった。
当時のプロイセンでは2部屋食事付ペンションの家賃が年100タラー、下級兵士の年俸が45タラーだったので決して低い額とは言えないが、クヴァンツが如何に破格の待遇を受けていたか想像に難くない。
カール・フィリップ・エマヌエルが作曲したフルート・ソナタには他にもオブリガート・チェンバロ付のものが10曲ほど残されているが、さまざまな試みが盛り込まれた音楽的に最も充実していて深みのある曲趣を持っているのはここに収められた11曲の通奏低音付ソナタだろう。
ソロと低音の2声部で書かれたオールド・ファッションの書法で、通常チェロとチェンバロの左手が通奏低音を重ねて右手が和声補充と即興的なアレンジを施すことになるが、このCDでも彼らはそのオーソドックスなスタイルを遵守している。
最後の第11番を除いて緩急のふたつの楽章に舞曲を加えた3楽章形式で、終楽章は通常ヴァリエーションで曲を閉じている。
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フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。
2019年10月13日
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トラヴェルソ奏者イェド・ヴェンツと創設以来長期間に亘って演奏活動を続けているオランダのピリオド・アンサンブル、ムジカ・アド・レーヌムの2人のメンバー、チェロのヨブ・テル・ハール及びチェンバロのミヒャエル・ボルクシュテーデによるユーハン・ヘルミク・ルーマン(1694-1758)作曲の12曲のフルート・ソナタ集で、ブリリアントからの2枚組の新譜になる。
ルーマンはストックホルムの宮廷楽壇で活躍したスウェーデン人の作曲家だが、作風は彼のロンドンを始めとするヨーロッパ諸国での研鑽を活かした、当時のインターナショナルな音楽観が反映されていて、こうした室内楽ではイタリア趣味とその様式を踏襲している。
トラヴェルソと低音の2声部で書かれ、このディスクではチェロとチェンバロの左手で低音部を重複させ、右手が和声を補う即興演奏になる。
ルーマンのロンドン留学時代にはアルカンジェロ・コレッリのリバイバル旋風が吹き荒れていて、イタリア風のシンプルなスタイルと華やかな演奏効果を狙った作品が持て囃された。
この曲集でもヴァイオリン・ソナタを髣髴とさせる技巧的なパッセージが随所に使われていて、ワン・キー・トラヴェルソでの演奏にはかなり高度なテクニックが求められる。
ヴェンツはかつてロカテッリのフルート・ソナタ集でその悪魔的な超絶技巧を披露したが、ここでは低いピッチを使用していることもあって、三者の息の合った流麗で屈託のないアンサンブルが秀逸だ。
当初ライセンス・リイシュー音源の廉価盤販売が専門だったオランダのブリリアント・レーベルは、ここ数年独自の企画によるオリジナル録音を次々にリリースするようになった。
その自由な選曲や演奏のレベルの高さ、音質の良さでも大手メーカーに迫るものがある。
彼らが力を入れている部門のひとつがバロック音楽で、このCDセットの録音は2014年暮れから2015年の初頭にかけて収録されている。
ルーマンの全12曲のフルート・ソナタ集の非常に優れた演奏集というだけでなく、数少ない選択肢のひとつとして古楽ファンには貴重なサンプルだ。
今回のヴェンツの使用楽器はオランダの名匠シモン・ポラックの手になる4ピース・ワン・キー・タイプのノースト・モデルでピッチはa'=398Hz。
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フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。
2019年09月16日
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アヒム・クヴァンツの作品集になり、ドレスデンと後のベルリン時代の協奏曲4曲が収録されている。
ヴェンツとムジカ・アド・レーヌムは快速のテンポでクヴァンツのヴィルトゥオジティを前面に出した軽快で屈託のないイタリアン・バロック・スタイルを強調している。
テンポ設定に関してヴェンツはアメリカの季刊誌『トラヴェルソ』に寄稿したエッセイの中で、楽譜に記されたアレグロやアダージョなどの速度表示はあくまでも相対的なものであることを認めながら、拍子記号や記譜法からその作品の求める演奏速度を割り出すことが可能だと主張している。
またメルツェルに先立って1696年にはフランスでエチエンヌ・ルリエが既にメトロノームを開発していて、当時の音楽家のテンポ感覚が決して悠長なものではなかったと仮定している。
もともと一介の辻音楽家にも等しかったクヴァンツは、トラヴェルソを趣味としてこよなく愛したフリードリッヒ大王にその演奏の技量を認められて大王の個人教授になるという幸運に恵まれた。
以来彼は宮廷演奏家の中でも最も高額の2000タラーの年俸を受けていた。
これは同じ宮廷に奉職していたバッハの次男でチェンバリストのカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの7倍に当たる。
それはクヴァンツ一流の社交術の成果でもあっただろう。
しかしクヴァンツの音楽は既にオールド・ファッションになりつつあったために、それを理想として信望していた大王のベルリン宮廷は皮肉にもヨーロッパの宮廷では音楽的な大きな遅れをとってしまうことになる。
ヴェンツとムジカ・アド・レーヌムはこの演奏に当たってベルリンとゲッティンゲンの図書館からの手稿譜を採用している。
録音は1992年で、この時期彼らが契約していたヴァンガード・レーベルからのリリースになる。
オランダ、デルフトのオウド・カトリック教会でのセッションになり、潤沢な残響を含んでいるが鮮明な音質で臨場感にも不足していない。
ちなみにアンサンブルのメンバー全員の使用楽器がライナー・ノーツに明記されているが、トラヴェルソについてはパランカ、オーボエはデンナー・モデルに統一されている。
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フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。
2019年05月25日
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このアルバムを鑑賞して先ず印象に残るのは音質に優れている点で、教会内の潤沢な残響を含んだ広い音場の中にそれぞれの楽器の定位、楽器同士の独立性やバランス、そして奥行きまでが手に取るように感知できる。
あたかも奏者達が目の前で演奏しているような生々しい臨場感が得られているが、あくまでも自然なサウンドが保たれているのが特徴だ。
またピリオド・アンサンブルでは古楽器特有の繊細で個性的な音色を明瞭に捉えることが課題になるが、レギュラー・フォーマットのCDでもこれだけの音質の再生が可能であることを示したアルファ・クラシックスの録音技術に拘った企画が注目される。
このCDにはジョヴァンニ・アントニーニのリコーダー・ソロによるオットテールの短いプレリュードからアタッカで導かれるテレマンの組曲イ短調を中心にクラリネットの先祖シャリュモーのためのソナタなど5曲が収録されている。
笛のためのバロック組曲と言えば、当時のフランスやドイツの宮廷でもてはやされたトラヴェルソをソロに取り入れた、バッハの管弦楽組曲第2番ロ短調が良く知られたところだが、テレマンの組曲イ短調はその調性と音域から通常リコーダーで演奏されている。
ジェド・ヴェンツがムジカ・アド・レーヌムとトラヴェルソで演奏したのはむしろ稀なサンプルだろう。
アントニーニのリコーダーはテレマンの音楽の本質的な要素、つまり演奏することとそれを聴くことの楽しみを理屈抜きで堪能させてくれる。
屈託のない娯楽性と言ってしまえばそれまでだが、そのためには作曲家の楽器の特性を熟知して最大限に活かすアイデアと創意工夫がある。
演奏者にはそれを実現する巧みな表現力とテクニックが要求されるので、作品の品位を保ちながらも良い意味でのパフォーマンスが欠かせない。
こうした曲集を聴いていると、当時テレマンが作曲家として大バッハよりも庶民的な高い人気を誇っていたことも想像に難くない。
アンサンブルはイル・ジャルディーノ・アルモニコのメンバー7人で、このうち通奏低音にはヴィオローネのほかにチェンバロと大型のリュート、テオルボが加わって彼らの手馴れた即興演奏もテレマンの音楽をより活性化している。
尚メンバー全員の使用楽器はライナー・ノーツに明記されている。ピッチは現代よりほぼ半音ほど低いa'=415Hzのいわゆるスタンダード・バロック・ピッチ。
アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコは2014年からハイドンの交響曲全集の制作を企画して目下のところ既に同アルファ・クラシックスから続々リリースされ、録音作業は順調にはかどっているように見える。
完成はハイドン生誕300周年に当たる2032年だが、このCDはその大事業が開始される直前に録音されている。
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フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。
2019年05月23日
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ヴェンツの1回目のフルート・ソナタ全曲録音が1991年で、それから18年後、彼が48歳になった2008年にこのソナタ集の再録音が行われた。
前回は偽作を含むソナタ7曲が勢揃いしていたが、今回は真作4曲と無伴奏パルティータ、それにトリオ・ソナタとして知られているBWV1038、1039及び『音楽の捧げ物』を加えてバッハの作品により忠実なプログラムになっている。
前回と異なる点は先ず使用楽器がパランカではなく、ブレッサン、オーバーレンダー、ウェイネの3種類のモデルを使い分けていることだ。
パランカはかなり機能的なトラヴェルソだが、むしろバッハ以降の音楽に適しているので今回の楽器の選択は時代の要求に適ったものと言える。
次にテンポの設定についてはテクニックに任せて吹きまくっていた30代の頃よりやや遅めになって音楽に余裕を持って取り組んでいる姿勢が窺われる。
バッハはいわゆる名人芸が聴衆の心を強く捉えることを充分に心得ていて、それを自分の作品に効果的に取り入れる一方で彼はその弊害も熟知していた。
つまり技巧を優先させると往々にして音楽性が二の次になるという明らかな現象であり、彼はそれを完璧に避けた。
当時カストラートの超絶技巧歌唱が全盛を極めていたイタリア・オペラにバッハが手を染めなかったのは偶然ではない。
トラヴェルソ奏者としてのヴェンツの豊かな音楽性や優れた表現力は、ヘンデルやブラヴェのソナタ集で顕著だが、前回に限って言えば速すぎるテンポ設定のために技巧が前面に出て、バッハ特有の深い音楽的な味わいが薄らいでしまっていた。
これを正当化するために彼は前回のCDの解説書とアメリカのニュースレター誌トラヴェルソに小論文を掲載している。
今回も大曲ロ短調ソナタの終曲ジーグは相変わず誰よりも速く、曲の始めから既に速いテンポを採っていて、殆どアクロバット的な超絶技巧曲のようだ。
つまりヴェンツはバッハが記した拍子記号と当時の習慣的な記譜法から曲の速度を割り出したようなのだ。
またこの時代の作曲家たちが絶対的な速度感ではなく、相対的にテンポを考えていたことを認めながら、メルツェルに先立って1696年に既にエチエンヌ・ルリエがメトロノームを製作していたことも指摘している。
彼はやはりヴィルトゥオジティを通した高い音楽性の実現を試みているのだろう。
彼の師クイケンの演奏をクラシックでアポロン的な表現とするなら、ヴェンツのそれはデュオニュソス的であり、様々な楽器を繰り出して聴かせる音色の変化に加え、アーティキュレーションも自在かつ多彩だ。
尚前回より楽譜には忠実で、リピートも省略していないため無伴奏パルティータ、アルマンドの最後の超高音aも2回吹いているし、サラバンドの反復部分の任意装飾も興味深い。
ピッチはa=415に統一されている。
このCDはブリリアント・レーベルの廉価盤だが勿論オリジナル・リリースで音質は非常に良く、トラヴェルソ特有の暖かみのある陰影を含んだ音色や、ボルフステーデの弾くルッカース・モデルのチェンバロの芯のあるふくよかな音質が良く再現されている。
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2016年06月17日
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「ベルリンのバッハ、フリードリッヒ大王のためのフルート作品」と題された1枚で、大バッハが大王に招かれて1747年にベルリンを訪問した当時の宮廷楽団のメンバー達によるフルートのためのアンサンブル作品を4曲収録している。
1曲目のトリオ・ソナタハ短調は大王がバッハに3声及び6声のリチェルカーレの即興演奏を所望した際に、自らクラヴィーアを弾いて与えた主題をもとに作曲された。
彼はライプツィヒに帰ってから2ヶ月後にこの主題を駆使した高度な対位法作品集『音楽の捧げ物』BWV1079を大王に献呈しているが、トラヴェルソとヴァイオリンが指定された4楽章のトリオ・ソナタもその一部をなしている。
ヴェンツとムジカ・アド・レーヌムの演奏は速めのテンポを設定して、古楽特有の古色蒼然とした響きとは一線を画した、垢抜けたモダンな音響を創造しているが、ハ短調というトラヴェルソにとっては不得手な調性にも拘らず、ヴェンツによって生き生きと鮮やかに再現されている。
それに続くヤーニチュとグラウン、そしてバッハの次男カール・フィリップ・エマヌエルも大王の宮廷楽団のメンバーで、大バッハの対位法の妙技を尽くした神秘的で神々しい作風とは明らかに異なった、来るべきギャラント様式への移行を示していて興味深い。
3曲共に装飾的な要素の強い明るい響きを持った曲想で、厳格な対位法がもはや作曲上のテクニックとしてのエレメントになっているのも聴きどころだろう。
18世紀中葉のヨーロッパで最も高い文化と理想的な芸術環境を形成していた都市のひとつがベルリンで、プロシャ王フリードリッヒ2世はポツダムのサン・スーシ宮殿を洗練された文化の牙城として余暇を楽しんだ。
彼の宮廷楽団は大バッハの次男でチェンバリストのカール・フィリップ・エマヌエルを含めた12名の器楽奏者から成り立っていたが、彼らの他に別格的な作曲家で大王のトラヴェルソ教師でもあったクヴァンツがいた。
大王のトラヴェルソ奏者としての腕前はプロ級だったことから数多くの横笛のための作品が献呈されたが、斬新な作曲技法の試みを厭わなかったカール・フィリップ・エマヌエルは、少なくとも大王の趣味には合わなかったために、当時の宮廷では不当に低い待遇を受けていたようだ。
ムジカ・アド・レーヌムのメンバーはそれぞれがピリオド楽器を使用しているが、この録音に関してはライナー・ノーツに楽器名が書かれていない。
バロック・ヴァイオリン及びヴィオラがマンフレード・クレマー、チェロがブラス・マテ、チェンバロがマルセロ・ブッシで、ヤーニチュとグラウンではマリオン・モーネンが第2トラヴェルソを担当している。
1995年にオランダ、デルフトの教会で行われたセッション録音で音質は極めて良好。
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フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。
2015年08月15日
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ヴェンツは自ら創設したオランダのピリオド・アンサンブル、ムジカ・アド・レーヌムを率いて、既にフランソワ・クープランの室内楽全集7枚組を同じブリリアント・レーベルからリリースしていて、この3枚組セットはそのうち『王宮のコンセール』1枚と『趣味の融合あるいは新しいコンセール』の2枚をまとめてプライス・ダウンしたリイシュー盤になる。
ユトレヒト・マリア・ミノール教会での2004年の録音で、鮮明な音質と雅やかな古楽器の音色を手軽なバジェット価格で親しめる演奏として特に入門者にお薦めしたい。
ちなみに3人の管楽器奏者の使用楽器は、ヴェンツのトラヴェルソが『王宮のコンセール』ではオットテール・モデル、それ以外はJ.H.ロッテンブルグ、アンナ・スタールのバロック・オーボエがオットテール、ジェーン・ゴワーのファゴットがプリュダン・モデルのそれぞれコピーになり、ピッチはa'=398Hzのいわゆるヴェルサイユ・ピッチで現代のそれより殆んど長二度低いために浮き足立たない典雅な響きが得られている。
クープラン一族はバッハ家と共に並び称される同時代の音楽家ファミリーだったが、中でもフランソワはルイ14世に仕えヴェルサイユ宮殿で毎週開かれた演奏会のために、多くの室内楽やソロ用の作品を作曲すると共に、鍵盤楽器奏者としても名を馳せた。
ここに収録された『王宮のコンセール』も例外なくそうした目的で誕生した娯楽のための組曲集だ。
曲の構成は先行する短いプレリュードに自由に扱われる舞曲系の小曲が続く典型的な様式で、そこには如何にも宮廷内の慰みといった、流暢だが一種刹那的な美学が感じられるのも事実だろう。
そのあたりのいまひとつ踏み込んだクープラン特有の情緒や音楽の陰翳の表出となるとムジカ・アド・レーヌムの演奏はやや薄味という印象を受けるが、そつのない軽快で華やかなアンサンブルと要になるボルフステーデのチェンバロの即興演奏が極めて巧妙で、全体的に高い水準のセッションになっている。
『趣味の融合あるいは新しいコンセール』は明らかにコレッリのイタリア趣味との迎合を意味している。
バッハが協奏曲でヴィヴァルディの様式に範を取ったように、クープランはコレッリのソロ・ソナタやトリオ・ソナタの楽器編成にヴェルサイユ趣味を映し出した。
さまざまな楽器を登場させてバラエティーに富んだ名人芸をちりばめ、後続にシシリエンヌやフゲットなどのエレメントを取り入れて伝統的な組曲に変化を与えているが、斬新な改革ではなくあくまでも曲想に彩りを添えるための試みといったところだ。
ムジカ・アド・レーヌムが水を得た魚のように自在に展開する屈託のない演奏が、曲想に相応しい洒落っ気を与えている。
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2015年08月14日
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彼の若い頃の演奏はロカテッリのソナタ集に代表されるような、名技主義を前面に出したおよそ古楽とは思えないような疾走するテンポが特徴で、クイケン門下の異端児的な存在だったが、ここ数年超絶技巧は残しながらも様式に則ったよりスタイリッシュな演奏をするようになったと思う。
この曲集も流石に大バッハの次男の作品だけあって、豊かな音楽性の中にかなり高度な演奏上のテクニックが要求される。
ヴェンツを強力に支えているのがチェンバロのミハエル・ボルフステーデで、ムジカ・アド・レーヌムの長い間のパートナーとして絶妙なサポートをしている。
2枚目後半での彼のフォルテ・ピアノのダイナミズムも聴きどころのひとつだ。
今回ヴェンツの使用したトラヴェルソは最後の3曲がタッシ・モデル、それ以外はノーストの4ジョイント・モデルで、どちらもシモン・ポラックの手になるコピーだ。
ピッチはa'=400Hzの低いヴェルサイユ・ピッチを採用している。
これはそれぞれの宮廷や地方によって統一されていなかった当時の、ベルリン宮廷で好まれたピッチで、ムジカ・アド・レーヌムもこの習慣を踏襲している。
またボルフステーデは2枚目のWq131、133及び134の3曲には漸進的クレッシェンドが可能なフォルテピアノを使って、来るべき新しい表現を予感させているが、この試みは既にヒュンテラーの同曲集でも効果を上げている。
尚このソナタ集には無伴奏ソナタイ短調が入っていない。
ヴェンツは大バッハの無伴奏フルート・パルティータは既に録音済みだが、この曲もやはり非常に高い音楽性を要求されるレパートリーだけに将来に期待したい。
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハは、27年間に亘ってプロイセンのフリードリッヒ大王の宮廷チェンバリストとして奉職したために、大王のフルート教師クヴァンツや大王自身の演奏に常に参加して彼らの影響を少なからず受ける立場にあった。
しかし作曲家としては彼の革新的な試みが不当に評価されていて、俸給はクヴァンツの年2000タラーに対して若かったとは言え彼は300タラーに甘んじなければならなかった。
当時のプロイセンでは2部屋食事付ペンションの家賃が年100タラー、下級兵士の年俸が45タラーだったので決して低い額とは言えないが、クヴァンツが如何に破格の待遇を受けていたか想像に難くない。
カール・フィリップ・エマヌエルが作曲したフルート・ソナタには他にもオブリガート・チェンバロ付のものが10曲ほど残されているが、さまざまな試みが盛り込まれた音楽的に最も充実していて深みのある曲趣を持っているのはここに収められた11曲の通奏低音付ソナタだろう。
ソロと低音の2声部で書かれたオールド・ファッションの書法で、通常チェロとチェンバロの左手が通奏低音を重ねて右手が和声補充と即興的なアレンジを施すことになるが、このCDでも彼らはそのオーソドックスなスタイルを遵守している。
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