ブルッフ

2022年08月07日


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近年、我が国出身の若手女流ヴァイオリニストが世界各国の有名コンクールで優勝する等の華々しい活躍をしている。

例えば、チャイコフスキー国際コンクールで優勝した諏訪内晶子(その後、神尾真由子が続く)をはじめ、パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールにおいて史上最年少で優勝した庄司沙耶香など、雨後の竹の子のように数多くの若き才能あるヴァイオリニストが登場してきている。

もっとも、彼女たちに共通しているのは、デビュー後数年間は華々しい活躍をするが、その後は影の薄い存在に甘んじてしまっているということだ。

諏訪内晶子にしても、近年では相次ぐスキャンダルによって新譜すら殆ど発売されていない状況に陥っているし、庄司沙耶香にしても最近での活躍はあまり聞かれないところだ。

神尾真由子なども今後どのように成長していくのかはわからないが、クラシック音楽の受容の歴史が浅い我が国の若手女流ヴァイオリニストが普遍的に世界で活躍するような土壌は、未だに肥沃なものとなっていないと言えるのではないだろうか。

五嶋みどりは、特にコンクールなどでは取り立てた受賞歴はないが、14歳の時のバーンスタインとの伝説的なコンサートで一躍世界に知られる存在となったところだ。

その後は、1990年代から2000年代の前半にかけて、世界の一流指揮者、オーケストラとともに各種の協奏曲等の録音を行うなど、華々しい活躍を行っていたが、最近では、他の若手女流ヴァイオリニストと同様に活動ややや低調になっている。

新譜の数自体が激減している昨今のクラシック音楽界の現状に鑑みれば、致し方がない面もあろうかとも思うが、五嶋みどりにしても、かつての輝きを今後も維持できるのかどうか、大きな岐路に立っていると言っても過言ではあるまい。

かつての伝説的なコンサートはもはや遠くに過ぎ去った過去の話であり、五嶋みどりが今後も円熟の大ヴァイオリニストとして末永く活躍していただくことをこの場を借りて祈念しておきたい。

それはさておき、本盤に収められたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番は、五嶋みどりが輝いていた時代の素晴らしい名演だ。

五嶋みどりのヴァイオリンは、もちろん技量においても何ら問題はないが、巧さを感じさせないところが素晴らしい。

要は、楽曲の美しさだけが聴き手に伝わってくるような演奏を心掛けていると言えるところであり、加えて、畳み掛けていくような気迫や強靭な生命力が演奏全体に漲っているのが素晴らしい。

実演ということも多分にあるとは思うが、五嶋みどりの体当たりとも言うべき渾身の、そして楽曲の美しさを際立たせた演奏は、我々聴き手の感動を誘うのに十分であり、このような力強い名演奏を聴いていると、あらためて五嶋みどりの卓越した才能を感じることが可能だ。

一部の女流ヴァイオリニストにありがちな線の細さなどは微塵もなく、どこをとっても骨太のしっかりとした構えの大きい音楽が鳴り切っているのが見事である。

このような堂々たる五嶋みどりのヴァイオリンを下支えしているのが、ヤンソンス&ベルリン・フィルによる名演奏である。

ヤンソンスは、現代を代表する大指揮者の一人であったが、本演奏でも五嶋みどりのヴァイオリンをしっかりとサポートするとともに、ベルリン・フィルを巧みに統率して、重厚な装いの中にも両曲に込められた美しい旋律の数々を感動的に歌い抜いているのが素晴らしい。

音質は2000年代前半のライヴ録音であり、従来盤でも十分に満足できるものである。

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2022年06月22日


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エドガル・モローの最新のアルバムは、ユダヤ教と彼らの音楽にちなんだ1枚。

カップリングされた作曲家達もラヴェルを除くブルッフ、ブロッホ、コルンゴルトはユダヤ系。

奇遇と言うべきかルツェルン交響楽団を指揮するミヒャエル・ザンデルリングもユダヤの血を継ぐ大指揮者クルト・ザンデルリングの息子だ。

若いモローがこうした作品に注目し、レパートリーに採り入れることは非常に興味深い。

ブロッホの『ユダヤ人の生活から』は、アンコール曲としても有名な「祈り」が含まれる作品集。

ヘブライ狂詩曲『シェロモ』の「シェロモ」とは、旧約聖書におけるソロモン王のことで、独奏チェロがソロモン王として曲が進行していく。

ブロッホのユダヤの世界観に根差した音楽性を壮絶な情念として書かれている。

コルンゴルトの傑作ヴァイオリン協奏曲の翌年に作曲されたチェロ協奏曲は、女流ピアニストを巡るチェリストと作曲家の三角関係を描いた映画「愛憎の曲」に書いた曲を拡大改作したもの。

モダンなハーモニーや洗練された響きの曲で、チェロのソロが緻密に濃厚に表現されている。

ユダヤ教で礼拝の際に用いられる朗誦の旋律に基づいたブルッフの『コル・ニドライ』。

異国趣味や民俗音楽を次々と取り入れたラヴェルの、アラム語による典礼文をテクストにした「頌栄(カディッシュ)」が第1曲に置かれた『2つのヘブライの歌』など、ユダヤ人のルーツとの深いつながりや、ユダヤの音楽に関連したチェロのための作品という意欲的なプログラム。

叙情的、情熱的、そして官能的な美しいモローの音は、「叙事詩的な広大なエレジー」を、歌心あるチェロ演奏の可能性を求めたものとなっている。

確かに彼らの曲には独自の精神性が宿っていて、民族的なメロディーを伴う斬新なオーケストレーションは感動的だが、モローにはまだ演奏の深みは求められない。

ただし切れの良いテクニックがもたらす鮮烈なアーティキュレーションと滔々と歌うチェロの音色が美しく、また芯の強さも感じさせる。

ルツェルン交響楽団は1806年に設立されたスイス・ルツェルン劇場の座付きオーケストラで、柔軟なサポートをしている。

ミヒャエル・ザンデルリング自身がチェリストでもあるために、独奏チェロを支えるサウンドも巧みだ。

ラヴェルの『2つのヘブライのメロディー』「カディッシュ」及び「永遠の謎」は同名の歌曲からの編曲になる。

選曲については、できればブロッホの『荒野の叫び』を加えて欲しかったが、これもかなりの大曲なので時間的に1枚のアルバムには収録しきれないだろう。

この曲はシュタルケル、メータ盤で優れた演奏が残されている。

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2022年05月29日


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ブルッフはブラームスと同時代のドイツ人作曲家であるが、本盤に収められたヴァイオリン協奏曲第1番、そしてスコットランド幻想曲やコル・二ドライは非常に有名である。

しかしながらその他の楽曲は殆ど知られていないと言っても過言ではない。

これらの有名作品以外にも、交響曲や協奏曲、室内楽曲、合唱曲など多岐にわたる質の高い作品を数多く作曲し、ブラームスもその作品を高く評価していた。

にもかかわらず、現在のブルッフの前述の3曲以外の作品に対する評価はあまりにも低すぎると言わざるを得ない。

このような非常に嘆かわしい状況にある中で、本盤のように、ヴァイオリン協奏曲第1番以外の名作が収められたディスクが発売されたというのは、大変に喜ばしいことと言わざるを得ない。

そして、演奏についても素晴らしい名演と高く評価したい。

まずは、メインのヴァイオリン協奏曲第1番であるが、グルズマンの思い入れたっぷりの豊かな情感に満ち溢れたヴァイオリンが素晴らしい。

同曲は、ドイツ音楽とは思えないような甘美なメロディが売りの作品である。

そうした甘美な名旋律を、グルズマンはこれ以上は求め得ないような陶酔的な演奏で、旋律を徹底的に歌い抜いている。

同曲の演奏には、これまでも様々な名演があるが、美しさと言った点においては、グルズマンの名演はあまたの名演の中でも上位にランキングされるのではないかと考える。

リットン指揮のベルゲン・フィルも、劇音楽「ペールギュント」などにおいて成し遂げた名演と同様である。

北欧のオーケストラならではのいささかも華美に走ることがない、抒情豊かな潤いのある演奏を繰り広げているのが素晴らしい。

ロマンスは、ブルッフ自身がヴィオラパートをヴァイオリンに編曲したものである。

ここでもグルズマンの情感豊かで美しさの極みとも言えるヴァイオリンを満喫することが可能だ。

遺作の弦楽五重奏曲も、この曲の持つロマン的な抒情を情感豊かに描出した至高の名演と高く評価したい。

グルズマンを含めた若き奏者たちの息の合った絶妙のアンサンブルも見事というほかはない。

さらに、本盤の魅力は、マルチチャンネル付きのSACDによる極上の高音質録音にある。

ブルッフによるこのような甘美な名旋律の数々を、鮮明な高音質で味わうことができることを大いに喜びたい。

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2015年03月04日


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20世紀最高のヴァイオリニストとして今も人気の高いハイフェッツ全盛期の超絶的な技量を味わうことが可能な素晴らしい名演だ。

同時代に圧倒的な技量を誇ったピアニストにホロヴィッツがいるが、ホロヴィッツが卓越した技量が芸術を超える稀有のピアニストであったのと同様に、ハイフェッツも、卓越した技量が芸術を超える稀有のヴァイオリニストであったと言える。

本盤には、ともにサラサーテに献呈された、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第2番というきわめてマイナーな作品と、多くのヴィルトゥオーゾヴァイオリニストによって演奏されてきたヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第2番が収められている。

30曲近いヴァイオリン協奏曲を完全に暗譜し、いつでも弾けるレパートリーとしていたハイフェッツはその多くを録音したことでも抜きん出ていた音楽家でもあった。

このうち、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第2番については、第1番があまりにも有名であるため、美しいメロディに満ち溢れた魅力作であるにもかかわらず、殆ど演奏されることはない作品である。

しかしながら、ハイフェッツの超絶的な技量は、この不人気な知られざる名作に光を当て、実に魅力溢れる作品に仕立て上げるのに大きく貢献している。

オペラ・アリアのような美しきメロディが曲全体を包み込み、ハイフェッツ節が炸裂する。

その仄暗いロマンティシズムが少々感覚に重たいブルッフ作品も、ハイフェッツの手にかかると切れ味鋭く凛と張りつめて、キリっと引き締まる。

これだけの卓越した技量を披露しているにもかかわらず、技巧臭がいささかもせず、音楽の素晴らしさ、魅力だけが聴き手に伝わってくるというのは、まさに、前述のような卓越した技量が芸術を超える稀有のヴァイオリニストの面目躍如と言ったところであろう。

他方、ヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第2番は、弾きこなすのにかなりの卓抜した技量を要する作品だけに、まさしくハイフェッツの独壇場。

その唖然とするほどの超絶的なテクニックは、とても人間業とは思えないような凄みがあり、ハイフェッツにしか表現しえない唯一無二の名演と高く評価したい。

ハイフェッツによる本盤の演奏は、持ち前の超絶的な技量を駆使することのみによって、両曲の内容面をも含めた魅力を描出し得た稀有の演奏と言えるのではないだろうか。

一昔前の名技性が意外に新鮮な、数多くある名演とは一線を画し、聴き返すたびに深みを増す、すこぶる付き快演と言えよう。

本盤で、さらに素晴らしいのはXRCDによる極上の高音質である。

今から半世紀以上も前のモノラル録音であるにもかかわらず、ハイフェッツのヴァイオリンの弓使いまでが鮮明に聴こえるというのは殆ど驚異的ですらある。

あらためて、XRCDの潜在能力の大きさを思い知った次第であるが、いずれにしても、ハイフェッツの人間離れした軽快で重厚なヴァイオリン演奏を、XRCDによる高音質で味わうことができるのを大いに歓迎したい。

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2014年10月26日


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本盤にはヴァイオリン界の雄パールマンが、30歳を少し越えた頃の、脂の乗り始めた時期に残したブルッフの2大名作が収められている。

ブルッフは、ブラームスとほぼ同時代の作曲家であり、交響曲をはじめ、様々なジャンルの作品を遺しているにもかかわらず、今日でも演奏される機会があるのは、ヴァイオリン協奏曲第1番、本盤に収められたスコットランド幻想曲など、僅かしかない。

辛口のブラームスでさえ、ブルッフを評価していたのであり、それは相当に不当な評価と言わざるを得ない。

ブラームスのように、堅固な様式美を誇ったわけでもなく、むしろ旋律の美しさが際立つ作品を遺したこともあって、もしかしたら、そのあたりに聴き手に飽きられる要因があるのかもしれない。

もっとも、スコットランド幻想曲など、その極上の旋律美には、身も心もとろけてしまいそうになるくらい魅力的だ。

そのような作品だけに、パールマンのように、明るくて美しい音色と華麗なテクニックを看板にするヴァイオリニストの演奏がよくないわけがない。

パールマンは、何の抵抗もなく音楽自体の美しさを伝えてくれる。

序奏ではデリケートに感じ入ったピアニッシモや心をそそるポルタメントが美しく、特に高音の浸透性は絶品だ。

パールマンの明るく美しい音色と華麗なテクニック、加えて豊かなニュアンスがこの名作をひときわ印象深いものにしている。

本演奏は、スコットランド幻想曲の美しさを見事に表現し尽くした素晴らしい名演と高く評価したい。

併せて、本盤には、第1番に比して殆ど演奏されないヴァイオリン協奏曲第2番が収録されているが、極めて美しい名演であり、録音が殆どなされていないという意味でも貴重な演奏と言える。

筆者としても余り親しみのある楽曲ではないが、それでもパールマンの手にかかると思わず聴かされてしまう。

落ち着いたテンポで仕上げているが、香りや懐かしさに満ち、心のこもった演奏だ。

およそ隙というものが見られぬ偉大なる名演と言える。

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2011年04月20日


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ベートーヴェンは非常に遅いテンポだが、チョン・キョンファのソロには緊張感が保たれている。

音色には艶があり、響きはしなやかで、以前のような気迫は感じられないが、そのかわり一層の柔軟性が加わり、演奏が伸びやかになっている。

今ならチョン・キョンファの新盤がいちばん好きだ。それはヴァイオリンが自由闊達に弾いているのに、なおかつ自然さも獲得しているからである。

やりすぎも、踏みはずしもないのに、ひたすら聴き手の心をつかんで離さない。

第1楽章展開部後半の短調のメロディーなど、特別なことは何もせず、心をこめて弾いているだけなのに、澄みきった悲しみが切々と迫ってくる。

テンシュテットのオケも有機的だ。

まず、冒頭の静けさと第2主題の暗さ、それがおずおずと明るく変化していく提示部の美しさを聴いただけで、このオケ部分がすごいことがわかるし、ソロと絡むとき同じ気分で反応していくのには感動してしまう。

この演奏でもっともすごいと感じるのは、第2楽章かもしれない。

静謐な美しさというのはこういうものであろうか。とにかく静かなのだ。心地よい緊張感とともに、音楽がすっと心に入ってくるのである。

オケのデリカシーに満ちた伴奏も特筆ものだ。

第3楽章は、ソロ・オケともども心が弾んでいるのがよくわかる。音楽が前へ前へと流れるので、曲が短く感じられるほどだ。

でもこの楽章でも、例の「静けさ」が時折顔を出す。オーボエとソロヴァイオリンの対話もそれであり、だからこそ終結へなだれ込んでいくクレッシェンドが、こんなにも感動的なのだと思う。

ブルッフでは落ち着いた情感と強い集中力が結びついており、息の長いフレージングで丹念に演奏している。

テンシュテットも息の合った共演ぶりだ。

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2010年06月08日


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ムターが17歳の時の録音である。

メンデルスゾーンが出色の演奏。

ムターの感受性にみちたニュアンス豊かな音色と弾き方、感情の起伏の大きいカデンツァ、強弱・緩急の変化が自在で極めてスケールの大きな演奏である。

カラヤンの指揮も壮大で厚みがある。

ブルッフも好演。

特に冒頭のカデンツァを、ムターは力強く、高い集中力をもって説得力のある演奏を聴かせる。

"ヴァイオリンの女王"と呼ばれる現在の彼女ならば、さらに自分の表現を徹底して、スケール豊かな演奏を聴かせてくれるだろうが、ここでのムターも真摯に作品に対して、自分の力を存分かつのびやかに発揮している。

若々しい集中力にとんだ演奏は、とても17歳の少女の演奏とは思えないほど充実しているし、繊細に心を傾けたみずみずしい歌と抒情がなんとも美しく、魅力的である。

カラヤンもいかにも硬軟巧みに、ムターのソロを生かしている。

ベートーヴェンやブラームス、チャイコフスキーなどを再録音しているムターが、この協奏曲をまだ取り上げてないのも、そうした魅力故ではないだろうか。

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2009年06月16日


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ベートーヴェンは、この曲の旋律的な美しさをあますところなく表出した演奏である。

パールマンの技巧は完璧そのもので、しかも豊かで美しい音色はこの上もなく魅力的だし、また演奏のスケールも大きく、ヴィルトゥオーゾの貫録を漂わせている。

終始自信に満ちた演奏で、どの部分をとっても楽器が完全に鳴り切っている。

旋律はよく歌い、音色は明るく艶やか。情感にも富んでいて、瑞々しい抒情性も失わず、音楽があくまで自然に豊かに溢れ出てくる。

無駄のないボウイングは緻密で清らかな音を生み出し、それが明快なフレージングと結びついた演奏は、実にのびやかで同時に引き締まっている。

これほど豊かに歌わせ、しかも美麗に磨きあげた演奏というのも珍しい。

パールマンの演奏で聴いていると、この曲は少しも難しくなく、きわめてスムーズで美しい音楽に聴こえるから不思議である。

彼の個性が最も効果を挙げているのは第2楽章だろう。

真摯であるがむきにならず、余裕をもって演奏しているため、音楽は豊かな雰囲気で聴き手に訴えかけてくる。

ジュリーニの堂々としたスケールの大きな好サポートも特筆すべきで、充実した荘重な運びの中にソロを包み、第1楽章や第3楽章などでのパールマンとの激しいわたりあいは聴きものだ。

再録音のブルッフも素晴らしく、自信にあふれた美音であくまでも明るく、粘りをもって弾いており、楽器が完全に鳴り切っている。

テクニックの切れも素晴らしい。

ハイティンクの指揮も、彼にしては珍しいほど気迫に満ち、オケも燃え切っている。

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2008年02月06日


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ハイフェッツの至芸を凝縮したのが、ドイツのヴァイオリン協奏曲の傑作、マックス・ブルッフ(1838-1920)の手になる《ヴァイオリン協奏曲第1番》である。

すっきりときびしくまとめた演奏で、そこに抵抗を感じる人もいるかもしれないが、その完璧な技巧に支えられた表現の豊かさは、ハイフェッツならではのもので、ヴァイオリン音楽の醍醐味をたっぷりと味わわせてくれる。

すべての音符があるべき姿でそこにあり、当然求められるべき音量と音色、質感とカンタービレで最愛の歌に変えられている。

ハイフェッツにあっては技巧そのものが音楽なのであり、究められた技巧はもうただそれだけで聴き手を感動させるものであることを証明している。

演奏家の想い入れで作品をベタベタと飾り立てることなどなく、楽譜そのものが歌となっていく演奏である。

ことに《スコットランド幻想曲》第3楽章の上品で香り高い艶麗さはまことにセンス満点、このあたりはハイフェッツの独壇場だろう。

なんだか良くできたコンピューターが演奏しているみたいだが、コンピューターは汗はかかない。

だがハイフェッツは汗をかく。ただし見えないようにである。

唯一無二の天才の至芸はいつも冷たく、そして熱い。

しかしそれはほれぼれするような冷たさであり、その客観主義のお陰で聴き手は作品と結ばれたことを実感、感謝してしまうのである。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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